緊急提言・・・「少子・高齢化」という呪縛を解け!
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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY
「少子・高齢化」という呪縛を解け−人口減少時代の政策転換
(関西社会経済研究所、Nouvelle Epoque No27 2004.6.20)
現代社会研究所所長 古田隆彦

「少子・高齢化」という呪縛 
「少子・高齢化」という言葉が世の中を呪縛している。だが、この言葉は、次の3点で現実をとらえ損ねている。

@「少子・高齢化」は「人口減少」の原因ではない。少子化で出生数が減ってもゼロにはならないから、人口は減らない。他方、高齢化で寿命が伸びて死亡数が減れば、むしろ人口は増える。
 つまり「少子・高齢化で人口が減る」とは限らない。人口が減るのは、減少する出生数を急増する死亡数が追い越す、つまり「少産・多死化」のためだ。

A「少子化」は進んでいない。確かに2030 年の子どもは、04 年に比べ約710万人も減る(注)。だが、それは 0 〜 14歳を「子ども」と決めているからだ。この定義は1960 年代にWHO(世界保健機関)の提案を受け入れたものだが、当時は進学率が高校約60%、大学等約10%で、10 代後半の大半が働いていた。
  しかし、現在の進学率は高校97%、大学等約50%で、10 代後半も未就労者が多い。意識の上でも、新成人の76%が「大人になったと思っていない」と答える(株式会社オーエムエムジーの調査結果, 2002 年)。そこで、24 歳までを子どもと見なし、今後3年毎に1歳ずつ上げていくと、2030 年前後に約1970 万人になる。04 年の14 歳以下は約1770 万人だから 200 万人も多くなる。

B「高齢化」も進んでいない。65 歳以上の高齢者は、2030 年には04 年より約1000 万人も増える。だが、65 歳以上も平均寿命が70 歳前後の1960 年代の定義であり、寿命がほぼ80 歳を超した現在には合わない。実際、現在の65 〜 75歳は体力や気力も充実し、仕事、貯蓄、資産運用などで経済力も維持している。
 とすれば、60 年代の平均寿命マイナス5歳を踏襲して、今後も平均寿命マイナス5歳にしてはどうか。これも3年毎に1歳ずつあげていけば、2030 年前後の75 歳以上は2097 万人(18.5%)で、現在(65 歳以上,19.4%)より 375 万人も減っていく。

 要するに「少子・高齢化」は幻想にすぎない。詭弁だ、と批判するのは、60年代の枠組みに囚われているからだろう。

限界に達した人口容量
 人口減少問題の本質は「少子・高齢化」にあるのではない。もっと根深く、“人口容量”の限界という、より厳しい現実にある。
あらゆる生物は、環境容量(キャリング・キャパシティー)の余裕があるうちは、人口を増やすが、限界に達すると停滞し減っていく。人間も同じことで“人口容量”にゆとりがなくなれば停滞し減少する。

 長期的にみると、日本人口は数回、増減を経験してきた。停滞・減少したのは縄文末期、平安・鎌倉期、江戸中期などで、いずれも当時の人口容量の壁にぶつかったためだ。今回もまた、基本的には同じ理由による。

 縄文時代や江戸時代ならともかく、現代日本に本当に壁があるのか。一例として食糧面を見ると、1億2700 万人の人口容量は、自給が可能な約7600 万人を基礎に、約5000 万人の輸入分を上乗せしたものだ。戦後の日本が作り上げた、工業製品を輸出して食糧・資源を輸入するという加工貿易国家の成果である。
 この仕組みが可能だったのは、日本の技術力や商品開発力が飛躍的に高まったからだが、それだけではない。もう一つの理由は、一部の工業先進国だけが高価な工業製品を生産し、大半の発展途上国が廉価な農業を生産する、という跛行的な国際構造のためだ。この環境下では、高い工業製品を売って安い農産品を買うのは、極めて懸命な方法だった。
  ところが、近年は発展途上国の多くが工業化し、工業製品は供給過剰だ。逆に農産品は労働力の減少や農地の縮小で供給不足となり、価格も上昇しはじめている。そこで、21 世紀には「工業製品安・農産品高」の傾向が強まっていくから、家電や自動車を売って、大量の食糧を買うという構造自体が無理になる。
 これこそ、私たちの頭上にのしかかっている人口容量の壁の一つだ。こうした壁に突き当たったため、現在の日本人口は、過去の減少期と同じように減りはじめている。

人口減少に対応した政策転換へ
 以上のように考えると、国家としての政策課題も大きく変わってくる。最も基本的なものを3つだけあげておこう。
@国家目標の転換。人口減少が社会構造の限界を示している以上、今後の国家目標は、従来の「成長・拡大・活力」から「成熟・濃縮・余裕」へ移行しなければならない。人口増加や経済成長をめざすのではなく、人口漸減やゼロ成長を前提に、それなりに満足度の高い国家を創りだすという目標だ。

A経済・産業政策の転換。工業文明の質的充実期に入りつつある欧州、量的拡大をなお続ける米国、量的拡大期に突入したアジア諸国の狭間で、今後の日本が進むべき道は何か。世界で最も成熟した国内市場を対象に、ハイテク、ソフト技術、感性・心理技術などを駆使した新商品と新サービスを開発し、それこそを新たな輸出産業に育て上げていくことだ。

B国民活用政策の転換。上記の課題を実現するには、労働人口を維持する一方、社会保障費などを抑制していかねばならない。それには、先に見たように、24歳以下を「年少者」、25 〜 74 歳を「生産者」、75 歳以上を「高年者」として、2030 年を目標に徐々に上げていく。こうすると、30 年の生産者は現在の66.7%から64.1%へ2.6 ポイント下がるが、高年者も19.4%から18.5%へ約1ポイント下がる。つまり、65 歳以上も積極的に労働力に組み入れていけば、扶養力は変わらない。

 人口減少という300 年ぶりの転換期には、社会・経済・行政の常識や社会科学の通念を超えて、言語や思考の根源にまで立ち戻り、政策対応を考察していかねばならない。

注.人口予測値はすべて国立社会保障・人口問題研究所・2002 年推計・低位値による。
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