◆人口減少・3つの変化
日本の本の人口は2009年から減り始め、2050年には一億人を割り、世紀末には4~6千万人にまで落ち込む。人口減少が進めば、日本の社会・経済にさまざまな変化が起こる。その中でも、今後の生活市場にとりわけ重大な影響をもたらすのは。次の3つの現象だ。
第一は地域人口の急減。都道府県の人口は、すでに8割強の地域で減少が進んでいる。25年ころになると、東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、埼玉県、滋賀県でも減少が始まるから、全てのエリアが人口減少地域になる(国立社会保障・人口問題研究所・13年3月推計)。
第二は年齢構成の上昇。「少産化」による若年層の縮小と「長寿化」による高齢層の増加で、若年人口(0~14歳)は10年の13・1%から50年の9・7%へ低下し、高齢人口(65歳以上)は10年の23・0%から50年の38・8%へ急上昇する。その結果、平均年齢も10年の45・0歳から50年の53・4歳へと、大きくシフトする(前記・中位推計)。
第三は家族構造の激変。総人口減少と年齢構成上昇の影響を受けて、家族の数は10年の5184万世帯から19年の5306万世帯までは増えるが、そのあたりがピークで、以後は減っていく。一世帯当たりの規模も10年の2・42人から20年の2・25人を経て、35年には2・20人へ縮小する(国立社会保障・人口問題研究所・13年1月推計)。
3つの現象は、生活市場に対して、一方ではマイナスの影響を与えるが、他方ではプラスのインパクトをもたらす。
◆3つのマイナス〝三縮化〟
3つの変化は、量的にいえば、間違いなく縮小現象であるから、地域市場にも当然マイナスの影響をもたらす。
①地域人口の減少は、それに比例して衣食住など、最も基本的な生活財の需要を減らし、必需品市場を縮小させる。つまり「必需縮小化」というトレンドを引き起こす。
②年齢構成の上昇は、若年層の減少と高年層の拡大を招くから、生活市場でも年齢の若い層が急速に縮む「若年縮小化」を進行させる。
③家族構造の激変で、家族の数と世帯の規模の、両方がともに縮小する「家族縮小化」が進んでいく。
3つのトレンドは、従来の人口増加社会、あるいは成長・拡大型市場からみれば、いずれもマイナス現象だ。しかし、どれもが避けられないものである以上、むしろ大きく視点を変えて、これらのすべてを、新たな生活需要や社会的ニーズの拡大とみなしたらどうか。つまり、これからの企業には、マイナス現象に積極的に対応して、新たな商品やサービスを大胆に開発することが求められるのだ。
◆3つのプラス〝三超化〟
一方、3つの変化を質的にみれば、従来のトレンドを覆して、新たな生活需要を生み出す可能性を秘めている。その意味では、生活市場にプラスの影響をもたらす。
地域人口の減少で経済・社会の基本的な方向が、従来の成長・拡大型社会が作り出した、さまざまな蓄積を、減っていく人間で巧みに利用する構造へと移行する。生活面でも、ひたすら成長・拡大を焦る生活心理が次第に縮小し、与えられた生活環境を巧みに活用して、自分なりの暮らしを実現する、「知足・自足型」の生活者が増える。そうなると、生活市場においても、これまでの日常生活を超えた「超日常化」というべきトレンドが生まれてくる。
年齢構成の上昇は、年齢区分を次第に上昇させ、人生の仕切り方もまた大きく変える。これまでは平均寿命が70歳前後であった、1960年ころの人生観に基づいて、幼年・少年・青年・中年・老年の年齢区分を決めていた。しかし、今後は「人生85~90歳」を前提に、幼年、青年、中年、老年などの開始・終了時代をそれぞれ見直して、各時期をゆっくりと生きる「超年齢化」へと移行していく。
家族形態の変化では、単身者、夫婦のみ、単親が増え、核家族や多世代家族が減っていく。さらに細かくみると、同棲、事実婚、別居婚なども増えるし、単身者がマンションの一室や一軒の家で共同生活する「ルームシェア」や「ハウスシェア」、高齢者が一緒に住む「グループホーム」、複数の家族や元気な高齢単身者が共同で暮らす「コレクティブハウス」といった、非血縁的な同居世帯も拡大する。従来の家族を超えた新家族、いわば「超家族化」ともいうべきトレンドの進行だ。
以上のように、人口変動の質的なインパクトは、超日常化、超年齢化、超家族化という、3つのトレンド、つまり「三超化」を生み出す。これらの需要を的確にとらえると、生活産業に関わる、多くの企業には絶好のチャンスが訪れる。
◆新たな必需品と選択品を創れ!
「三縮化」というマイナス現象と、「三超化」というプラス現象。地方の企業がこれらのインパクトを柔軟にキャッチするには、マーケティングの視点と戦略を、基本から見直していくことが必要だろう。
一つは新しい必需品の開発。人口減少が消費市場に与える、最大の影響は、減少に比例して日常=必需品の需要が落ちることだ。これを克服するには、三縮化と三超化に見合った、新たな必需品を開発して、日常市場を維持することが求められる。
新たな必需品を生み出す、最も基本的な戦略は、いわゆる「差別化」戦略だ。商品やサービスの機能・性能・品質などの面で、利便性や有用性の差を作りだし、新たな需要を喚起していくものだ。
しかし、差別化の対象を機能・性能・品質に限ってはならない。価格、使用頻度、対象ユーザー、販売方法、顧客対応などの面でも、新たな優位性を発揮することが求められる。
価格面でいえば、低額化・定額化・高額化など戦略を多面化する。使用頻度では複数化やリピート化を追求する。対象ユーザーでは従来からの顧客層を見直し、異なる層を開拓する。販売方法でも一人の客から従来とは異なる需要を探し出す。そして顧客対応では一人の客と商品の接触ルートを複数に増やす・・・といった戦略によって、日常的、必需的な新商品を開発し、売り上げを維持していく(事例1、2、3参照)。
もう一つは新たな選択品の創出。人口減少や年齢・家族構成の変化で、新たな選択需要が生まれてくるから、産業側も的確に対応しなければならない。従来の差別化を超えた、幾つかの戦略が必要になる(事例1,4参照)。
①差異化・・・商品の機能や品質の上に、カラー、デザイン、ネーミングなど言語的、社会的な意味づけを行う。
②差元化・・・言葉やデザインの対極で、体感、伝統、神話など、伝統的、根源的なイメージを商品に付加する。
③差汎化・・・社会構造や生活態様の変化に応えて、人口減少時代に見合ったライフスタイルや流行を提供する。
④差延化・・・流行やトレンドの対極で、他人がどう思おうと自分だけの満足を強く求める、こだわり派の生活者に対し、きめ細かく対応する。
⑤差真化・・・自らが定めた目的をめざして、厳しく自己を統制しようとする生活者に対し、学習、訓練、儀式性などを付加する。
⑥差戯化・・・日常生活を一時緩め、非日常的な世界に戯れようとする生活者に対して、ゲーム、遊び、模擬体験などを提供する。
こうした戦略で、人口は減るものの、その分濃厚になる生活願望に向けて、新しい商品やサービスを創出できれば、生活市場はまだまだ充実できる。人口減少というマイナス現象をプラスに変える、最大のメリットは、マーケティングの原点回帰を再確認することにある、ともいえよう。
◆人口減少地域こそ先進地
人口減少地域というと、後進地とみなされがちだが、大きな誤解だ。25年以降は全ての県で人口が減る以上、むしろ先進地と考えるべきではないか。
何が先進地なのか。一つは人口減少から発生する、さまざまな地域需要に真っ先に対応を迫られること。もう一つは人口減少のデメリットをメリットに変える、絶好のチャンスに恵まれること、の二つだ。
この利点を活かすため、人口の減る地域の企業には、地域密着という特性を活かして、新たな生活需要や心理需要をきめ細かく汲み上げ、人口増加時代とは異なるビジネスを創出することが期待される。
それには、ソーシャルメディアなどへの発信力を向上させるとともに、カラー、デザイン、ネーミング、ブランド、ストーリーなどの差異化能力や、差延化、差元化、差真化、差戯化などの創造力もまた、次々に開発させることが求められる。
これらの戦略に成功した時、地方発の新商品やニュービジネスは、全国はもとより、やがては人口減少が始まるアジア各地へと、大きく羽ばたいていくだろう。
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