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人口減少時代の不動産流通業④・・・付加価値戦略を見直す
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(現代社会研究所所長・古田隆彦) |
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人口減少で顧客が減れば、新築住宅も賃貸物件も〝必需〟的な需要は低下する。こうした環境の下で、不動産流通業が業績を維持するには、新しい値打ちや情報を付加したサービスを創り出し、〝選択〟的な需要を開拓しなければならない。
新しい値打ちといえば、マーケティングの基本は「差別化」。高性能や高品質など、機能性の向上で新規性や訴求力を上げていく戦略だ。不動産流通業では、販売・仲介サービスの信頼性、正確性、スピードなどを向上させていくことが求められる。
だが、それだけではない。「差別化」以外にも、差異化、差延化、差元化、差真化、差戯化など、さまざまな戦略がある(詳細は拙著『人口減少逆転ビジネス』を参照されたい)。
差異化は、カラー、デザイン、ネーミング、ブランドなど記号性の向上で、新たな需要を創りだす戦略。当業界でいえば、視覚的・聴覚的な情報提供をさらに充実させていく。
差延化は、私仕様、参加、手作り、編集、変換など、顧客の自己満足を向上させる仕組みの創造。当業界でも今後は、契約方式や対象物件などのカスタマイズ化が課題になるだろう。
差元化は、体感、象徴、神話など、心の深層に潜む「欲動」をつかみとる仕組み。音や風、歴史や風土などの環境条件、あるいは易、恵方、風水などの神話的条件の調査や紹介が、業務を見直す契機になる。
さらに学びや遊びも、有力な付加価値になる。
差真化では、学習やトレーニングなどへの隣接性を、対象物件に付加する。認可保育園の有無、公立学校や有名進学校への通学圏はもとより、カルチャーセンターやスポーツクラブなどの利用可能性も情報として提供していく。
差戯化は、ゲームや娯楽などを楽しめる条件を、提供サービスに加える。対象物件に遊戯要素を織り込むとともに、公園、ゲームセンター、遊園地などの情報も顧客へ提供する。
幾つかの戦略を付加して、不動産流通業は、単なる仲介業から「多面的な住生活提案業」へ進化していくことが望まれる。
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(月刊不動産流通・2011年4月号) |
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人口減少時代の不動産流通業③・・・スーパーファミリーをとらえる
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(現代社会研究所所長・古田隆彦) |
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人口減少は家族の形も大きく変える。家族総数は、二〇一五年の五〇六〇万世帯から、二五年には四九八四万世帯に減る。
家族の形も、三世代以上が同居する「多世代家族」に親と子どもの「核家族」を加えた比率は、一五年の三八%から二五年の三四%へ低下。一方、単独世帯は三三%から三六%へ、これに夫婦のみや単親世帯(シングルマザーやファーザー)を加えると、六二%から六六%へ増加する。多世代や核家族のような「伝統的」家族よりも、単身者、夫婦のみ、単親者など「非伝統的」家族が多くなる、ということだ(国立社会保障・人口問題研究所、〇八年推計)。
家族総数が減るだけではない。質的にも多様化し、同棲、事実婚、別居婚、子連れ再婚などが増える。あるいは、単身者がマンションの一室や一軒の家で共同生活するルームシェアやハウスシェア、複数の家族や元気な高齢単身者が一緒に暮らすコレクティブハウスといった、非血縁的な居住形態も登場する。従来の「家族」に代わる「他族」「多族」、いわば「スーパーファミリー(超家族)」の拡大である。
不動産流通業はいかに対応すべきか。ルームシェアやハウスシェアでは、専用のアパートやマンション、一戸建てなどの拡大に努め、契約方式、居住マニュアルなども充実させて、新たな居住形態を広く社会へ認知させることが必要だ。コレクティブハウスでも、新築物件の増加を支援し、生活作法や居住・契約条件など、ソフト面の整備に取り組むことが求められる。
これらの対応は、一部先進的な企業やNPO法人(特定非営利活動法人)が先行しているが、不動産流通業も早急に取り組むべきだろう。また既存マンションでも、自治会活動や管理運営を支援して、コミュニティ機能を高めたファミール伏見(京都)のような物件を育成していくことが必要だ。
以上の対策は、いわゆる「無縁社会」を克服する手段の一つとして、社会的にも強く期待されている。不動産流通業への期待は限りなく大きい。
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(月刊不動産流通・2011年3月号) |
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人口減少時代の不動産流通業②・・・住み替え需給の変化をとらえる
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(現代社会研究所所長・古田隆彦) |
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人口減少社会の実態は「少産・長寿社会」である。現在の日本人は、少なく生まれてくるものの、八〇~九〇歳まで生きる。人生が長くなれば、それに伴って生き方、暮らし方も変り、住み方も当然変わってくる。
子どもの数が少なくなると、両親はその分大切に育てようとするから、よりよい育児・教育環境を求めて、次々と住み替える。子どもが幼児の時には、認可保育園や小児科医院などを併設したマンション、あるいは働く母親を対象にした「子育て支援」マンションへ移るし、就学が近づけば、公立学校や有名進学校への通学圏へと、身軽に転居する。
他方、定年を超えた六〇~七〇歳代は、新たな人生を求めて、温暖地や帰農適地へ移住する。さらに八〇歳を過ぎれば、家族構成の変化や身体能力の低下を考えて、利便性の高い都心部などへ住み替える。「広すぎて維持管理が大変」とか「病院や買い物に便利な場所へ引っ越したい」といった事情も多い。
需要が変われば、供給も変わる。マンション業界では「子育て仕様マンション」を増やしているし、定年組や長寿層の所有する住宅の、賃貸や転売を仲介するNPO(非営利組織)や公的組織も増えている。
とりわけ、高年齢層の所有する、大・中規模の住宅を、子育てに適した広さを求める若い世帯に賃貸できれば、ミスマッチも解消する。農・漁村の空き家も、少し手を入れれば、田舎暮らし志向の定年組に貸すこともできる。
需給環境の変化を、不動産流通業はどうつかむのか。手間やコストがかかるため、現在では、国や自治体の支援を受けた準公的組織や、大手マンション企業が対応している。
だが、中小企業でも参入できないわけではない。グループ化や連携化を促進し、地域を超えた仲介システム、育児・教育情報や故郷情報などの整備と交換、長寿者・子育て世代間の賃貸保証モデルなどを作り上げれば、十分取り組むことが可能である。
不動産流通業は一刻も早く「多面的な住生活提案業」へ移行すべきだろう。
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(月刊不動産流通・2011年2月号)) |
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人口減少時代の不動産流通業①・・・人口減少で問われる不動産業のアイデンティティー
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(現代社会研究所所長・古田隆彦) |
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不動産流通業が「宅地・建物の売買・賃貸仲介」業を超えるのは時間の問題だろう。
人口減少が始まって、すでに六年が過ぎたが、このまま減少が続けば、二〇五〇年前後に一億人を割る。減少に伴って、二一世紀前半の日本は、一九~二〇世紀型の右肩上がり社会から右肩下がりの構造へ移行する。
この影響は、社会・経済のあらゆる分野に波及し始めているが、とりわけ不動産流通業にとっては逆風となる。土地・建物に関する需給環境が大きく変わり、業種・業態のアイデンティティーが問われるからだ。
アイデンティティー(自己同一性)というのは、アメリカの心理学者、E・H・エリクソンの唱えた理論。初めて社会の現実に触れた若者は、それまで「自分だ」と思い込んでいた自我を動揺させて、新たな自分を構築する必要に迫られる。現在の不動産流通業に当てはめれば、激変する社会環境の中で、従来の「売買・賃貸仲介」業が通用しなくなり、新たな存在意義を模索する時代になった、ということだろう。
確かに人口減少、右肩下がり社会の影響は、不動産流通業を直撃する。需要面でいえば、総住宅需要の減少、移動人口の減少、世帯数の減少などで、購入・賃貸需要の量的減少が始まっている。そればかりか、長寿化による年齢別需要の変化、移動減少による地域別需要の特異化、世帯形態の多様化による居住需要の分散化など、質的な影響も次第に高まってくる。
供給面でも、住宅投資の減少で対象物件が減少する一方、不住物件の増加による空き家の拡大や、住み替え需要の変化に伴う売買・賃貸物件の変動なども予想される。
ここまで需給環境が変ってくると、「良好な住環境をユーザーに提供する」という、業界の原点に立ち戻って、新たなアイデンティティーを再構築することが必要になる。それは多分「多面的な住生活提案業」へと進化していくことだろう
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(月刊不動産流通・2011年1月号) |
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