9月に発表された『厚生労働白書・若者の意識を探る』によると、昨年の結婚数は67万組で、最も多かった1972年に比べ4割も減ったという。
初婚年齢の平均値も夫30・8歳、妻29・2歳で、過去30年間に夫は3歳、妻は4歳ほど上昇した。生涯未婚率(50歳で結婚未経験者の割合)は男性19・3%、女性9・9%で、1980年に比べて男性は16・8ポイント、女性は5・3ポイントも上った。
直接の原因は若年層の減少と未婚率の上昇が重なったためだ。さらに心理的な理由として、白書では①「結婚は個人の自由」と思う人が7割、②9割が恋愛結婚なのに付き合い下手が増加、③交際を望まない男が28%、女が24%、④非正規雇用や無職では結婚願望が低い、などを指摘している。
そこで、今後の対策として、①未婚者の対人関係力を伸ばす、②結婚に踏み切らせるしくみを作る、③若年層の収入を増やす、④女性の就業促進や男性の家事・育児参加および能力向上を図る、などが必要だという。
なるほど、とは思うが、どこか人口増加時代の発想が残っている。現在適齢期にいる若者たちは、むしろ積極的に結婚を避けているのではないか。
動物行動学に「エレベーター効果」という理論がある。短時間、過密状態におかれた霊長類は、社会的な交流を制限するというもの。一匹の猿が狭い檻に数多く押し込まれると、最初は小さな叫び声をあげて、他の猿を押しのける。だが、効果が薄いとわかると、今度は毛繕い、キス、お辞儀などで友好性を示す。その結果、一時の平穏が訪れるものの、個々の猿は絶えず自分をひっかいて、ストレスを示し続ける。
人間もまた、満員エレベーターに乗り合わせると、まずは他人を軽く押して自分の存在を示すが、その後は動作を抑え、視線を固定して、周囲との接触を減らす。全員の我慢で静かになるが、内心では「一刻も早く出たい」とストレスを強める。要約すると、最初の自己防衛、次の接触抑制、最後のストレス増加、の三プロセスだ。
人口容量が満杯になった社会もまた、満員エレベーターと同じだ。人口容量とは、一定の自然環境を文明の力で利用して、どれだけ人口が養えるかを示す指標。現代日本でいえば、工業文明による1億2800万人だ。
1990年代に、容量が頭打ちになったため、まず広がったのが自己防衛。容量の制約がさまざまな形で及び始めると、人々は不安や危機を感じ、とにかく自分を守らなければ、と防衛意識を強め攻撃的にもなった。
続いて進んだのが接触抑制。飽和した社会環境や不安定な経済状況の下では、すでに獲得した生活水準を割くことを恐れ、友達とも一定の距離をとり、結婚も避け、結婚しても子どもは作らない。だが、接触を避けていると、ストレスが溜まってくるから、時には爆発する。過去10数年の間に起こった、幾つかの異常事件の背景の一つだ。
もっとも、人口減少が始まって、この数年、状況は劇的に変わり始めている。満員状態がやや緩和し、少しずつゆとりが生まれてきたからだ。ストレスが弱まると、過剰な防衛本能も薄まり、一定の社会・経済環境の下で自分自身を活かそうとする〝知足〟的な気分が広がってくる。
例えば「現在の生活への満足度」。08年以降、一貫して上昇しているが、今年は20歳代で78%、30歳代で76%と、若い世代で圧倒的に高い(内閣府「国民生活に関する世論調査」)。
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という家庭観も、昨年初めて「賛成」が52%で「反対」45%を超えた。20歳代でも50%対47%だ(内閣府「男女の共同参画に関する世論調査」)。実際、15~39歳の独身女性に「専業主婦になりたいか」と尋ねると、肯定派が34%で、否定派38%に拮抗してきた(厚生労働省「若者の意識に関する調査」)。
こうした意識変化が広がれば、結婚のハードルも低くなる。女性も子どもを産みやすくなる。人口減少が定着してくると、私たちの生活意識もまた大きく変わっていく。
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