現代社会研究所 RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY
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人口減少で日本はどうなる(東京新聞 2000年2月27日)

 「人口減少下の経営をどうするか」。長期的な人口の増減で未来を展望する古田隆彦・青森大教授には企業などからの問い合わせが増えている。古田教授は「これからの日本は二十世紀型の発想でなく、人口が飽和から減少に向かう凝縮型の社会を前提にした消費や産業構造を作り上げたほうがいい」と人口減少を織り込んだ発想の転換を促す。


CHANGING TIMES  Workers searching for new meaning in life as values change(Asahi Evening News,1-2,2000)

The figures underscore the nationwide sense of loss stemming from the end of the asset inflated economy.
 In addition, Japan in five years will experience a major change that can be called the "2005 shock," said futurologist Takahiko Furuta. He predicts the nation's population will start decreasing in 2005 for the first time since the early l9th century.
 "The last decade of l990s was a transition to the next period when people changed their values,"  Furuta said."The current situation is a sort of deadlock,and many Japanese people are struggling for new values."
 


同じ人口減少期の享保時代に学べ  現代社会研究所長・古田隆彦
(毎日新聞・中部版・正月特集・少子化が社会を変える、2000年1月1日)

 来るべき人口減少社会をどう生きるか。岐阜県出身の研究者で、10年ほど前から、同じ人口下降期だった江戸中期の社会との類似点に着目し、「平成享保時代の到来などユニークな社会予測や提言を続けている古田隆彦・現代社会研究所所長に聞いた。

 −−−「江戸に習え」といろいろな媒体を通じておっしゃってますね。
 少子化だとか、人口減少で「日本はこれから大変だ」「見通しが全くない」なんて声をよく聞きます。しかし、実は日本が人口下降期を迎えるのは初めてではないのです。旧石話時代後期、縄文後期、平安・鎌倉、江戸中期と、これまでにわれわれは4回も人口下降期を経験しています。特に江戸時代のことはふんだんに情報があるわけですから、それを利用しない手はない。何も恐れることはないと思うのです。

 −−−江戸中期と言えば約100年を経た幕藩体制がいろいろな意味でほころびを見せ始めたころですね。
 商品経済が急速に広まった元禄期を経て、農業を基盤とした社会に陰りが見えてくる時代です。気象の悪化を原因としてききんが相次ぎ、人口もそれを契機に減少していきますが、一方で、江戸時代の農業の生産はこの時期をピークにだんだん頭打ちの状態になっていきます。いわば、それまでの集約農業が限界近くまで成熟し、飽和してしまったのです。その閉そく状況が心理的に少子化を意識させたと思いますね。

 −−−現代に置き換えれば、それが工業社会の成熟ということですか。
 そうです。昭和元禄をバブル経済期とすればヽ享保期から化政期にかけて矢継ぎ早に叫ばれる「改革」ブームが現代でしょうか。「平成享保」とは、そんな時代の到来を予測した言葉でした。それでも悲観することはありません。享保以降の時代は、江戸に新しい町民文化が広まり、「粋」や「通」といった独特な美意識が生まれた時代です。江戸時代を代表する浮世絵もこの時期、黄金期を迎えました。貸本屋や寺子屋が増加しヽ識字率も急速に上昇した文化の爛熟期なのです。

 −−−その「平政享保」は何を生み出すでしょう。
 新しいライフスタイルや価値観でしょう。私自身には、今の工業社会がもう一歩進化したような第2次工業化時代がやってくるかもしれないという思いがあります。たとえば、衝突しても死者が出ないような、ぶよぶよした素材の軟らかい自動車の開発であったらいいなあ、なんて思います。しかし、それを生み出すのは
私たち一入ひとりなのです。起業家としては300年に1度の絶好のチャンスだと、むしろ喜びたいですね。


古田先生の課外授業】 21世紀の職を考える 古田隆彦(朝日新聞・朝刊1999年5月9日)
21世紀を豊かなものにするために、これからの「職」のあり方について考えてみました。新しい時代のビジネス形態、雇用形態はどうなるのか? これから必要な職に対する意識とは? 青森大学社会学部教授・古田隆彦さんにお話をうかがいました。

今後の「凝縮社会」をいかに生きるか。求められるのは価値観の変革です。 

 農業社会であった江戸時代には、国民の約八割が農民でした。農民の仕事は、家という集団の中で、生まれてから死ぬまで働き続ける、文字通りの「終身雇用制度」でした。しかし、幕末以降の日本は、西欧の工業技術や企業システムを導入して、明治、大正、昭和と発展させ、工業製品を作って輸出する加工貿易体制に移行してきました。そこで、現在の日本では、勤労者の約八割が会社などに勤めるサラリーマンになり、工業社会に見合った形での「終身雇用制度」を作り上げています。

 ところが、九〇年代の日本は、上り坂から下り坂に向けて、大きな曲がり角にさしかかっています。従来の伸び盛りの社会では、ピラミッド型の組織を作り、ツリーのように上に向けてどんどん伸ばせばよかったのです。だが、最近では環境問題、経済停滞、国際貿易摩擦など、さまざまな問題が大きな壁となって立ちはだかってきたため、このまま上に伸びていくことは困難になってきました。

 そうなると、縦に伸びていく巨大組織よりも、横に広がる小規模組織のほうが有利になります。一つ一つは小規模ですが、強力なネットワークで結ばれている組織であれば、例えばタケノコのように、横方向にあちこちに根を伸ばして、根と根が重なったところから、新しいタケノコを生み出すことができます。いろいろな組織がくっついたり離れたりしながら、新しいものを生んでいく組織といってもいいでしょう。これからはこうしたフレキシブルな組織が広がってきますから、一度ピラミッドの中に入ってしまえば一生安泰だった従来の終身雇用制度は、次第に崩れてくるでしょうね。

「凝縮社会」を支える高付加価値商品

 二十一世紀に入ると、日本の人口はどんどん減っていきます。人口が減れば、商品の売り上げは落ち、労働力も減ってきます。そうした社会で、経済を維持していくには、たくさん売れなくても、たくさんもうけの出る商品を創りだすことが必要です。つまり、新しい効用、意味、文化、情報などの高付加価値をのせた商品を創りだすことですが、それには、そうした商品を生み出せる人材や組織が求められます。

 実をいうと、江戸時代の中期にも今と似たようなことが起こっていました。当時もやはり人口減少社会でしたが、浮世絵や読本、洒落本という高付加価値商品が生まれています。その背景には、一番目に高度な木版技術を持った職人が、二番目に優れた絵師や戯作者が、三番目に彼らの能力を結びつけて新しい商品を創り出すコーディネーターがいました。この三つの能力が重なって、初めて江戸の大衆文化が花開いたのです。

 現代に置き換えてみると、一番目はパソコンやロボットを完全に使いこなせる人材です。二番目はパソコンやロボットを道具にして、CGやゲームや精密部品を創りだせる人材です。そして三番目は、さまざまな能力を持った人材を組み合わせて、世の中が望んでいる高付加価値商品を企画・開発できるコーディネート能力を持った人材ということでしょう。

 人口減少社会というと、ついマイナス思考になりがちですが、もっとプラスにとらえて、“凝縮社会”と考えるべきでしょう。人口が減れば、環境負担は縮小し、食糧・資源・エネルギーも節約できます。国際的にみても、アメリカはずっと人口増加、消費増加の上り型社会だけで、下り坂をまだ経験していません。一方、ヨーロッパ諸国は何度も経験して、いまや下り坂に向かい始めています。二つの先例を横目に見ながら、日本は江戸時代の知恵や創造力を見直して、アメリカ、ヨーロッパに変わる第三の道をめざすべきでしょう。人口減少社会の望ましいあり方を世界に示すことができれば、二十一世紀の国際社会に大きく貢献することができると思いますね。

六十代、七十代を充実して過ごすために

 ネットワーク社会や凝縮社会では、どのような人材が求められるのでしようか。いままでの能力主義は、一つの会社の中だけで評価される能力にかたよっていましたが、これからはどの会社へ行っても通用する能力に変わってきます。そのうえ、高齢化社会では、七十代まで働くのが当たり前になります。五十代、六十代になっても、会社生活で経験したノウハウ以外に、どれだけ自分を世の中に売り込めるか、が問われるようになります。とすれば、学生や新入社員のころから、いろいろな形でノウハウを蓄積したり、アメーバーのように八方に触手を伸ばして、他人の触手とつながっていくことが必要です。そうしたノウハウや触手を、毎日の生活の中で少しずつ増やしていくことができれば、六十代、七十代になった時にも、充実した生き方が保証されます。高齢者になった時の充実した生活こそ、ビジネスマンの本当の成功を意味しているのですね。(談)