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●新しい移民ニーズが生まれた
「米国では、毎年ざっと百万人の移民もあって、二〇五〇年には人口が約四億人に増えるという。日本は逆に大幅に減る」「もしそうなら、自動車産業は日本では自立した形では成り立たなくなる」（日本経済新聞朝刊・二〇〇一年六月二日）として、「個人的には日本としても移民を受け入れた方が良い」（同・二〇〇〇年五月二四日）と日経連の奥田碵会長は語る。
経団連の今井敬会長も「世界の優秀な人材に愛され、住んでもらえる国にしなければならない。危険な仕事だけでなく、外国人を雇用する余地はある」と述べている（毎日新聞朝刊・二〇〇一年七月一四日）。
このところ、経済界のトップから外国人の受け入れに関し、積極的な発言が相次いでいる。八〇年代の後半には人手不足の深刻化に海外からの入国圧力が重なって、外国人労働者の導入を求める声が高まっていたが、九〇年代に入ると、不況の進行で逆に雇用不安が広がったため、その議論も下火になっていた。にもかかわらず、再び受け入れを求める声があがり始めたのはなぜか。
最近の主な意見を整理してみると、一つは急拡大するＩＴ産業のために、インド、中国、韓国などから専門的技術者を積極的に招こうという主張。二つめは急増する高齢者の介護要員対策や、高齢化する農漁業従事者の補完対策として、技能的労働者の受け入れを求める要請。三つめは内需維持のため、購買者として新たに移民の受け入れが必要という意見。そして、四つめはよりマクロな視点から、間近に迫った人口減少を是正するために「補充移民」を受け入れよ、という主張である。
とすれば、今改めて問われているのは、単純労働の人手不足対策を超えて、内需維持やハイテク産業の要員対策といった、より長期的、構造的な問題なのである。さらには間近に迫った人口減少時代に、産業や経済を維持していくには、思い切って移民の導入に踏み切るべきだという主張である。
こうした新しい要請に対して、わが国はどのように対処していけばいいのだろうか。
●ヨーロッパでも同じだ！
実をいうと、移民問題の変化は日本だけではない。欧州各国も今、三つの移民問題に直面し、全体的な対応に戸惑っている。
一つはやはり「技術移民」問題。ＩＴ先進国の米国が二〇〇一年から三年間、ＩＴ技術者関連のビザの発給枠を大幅に拡大したのに対抗して、ドイツではハイテク技術者二万人に特別労働ビザを与え、今年初めまでにインドなどから約五〇〇〇人の技術者と家族を受け入れた。イギリスも昨年から、発給制限緩和や入管手続きの簡素化に踏み切った。ＥＵの首脳会議も今年三月、情報社会に対応した雇用戦略「Ｅヨーロッパ２００２」を決定し、ＩＴ技術者の積極的な獲得に乗り出した。
二つめは「移民看護婦」問題。欧州各国では近年、高齢化の進行や若者の看護婦離れによる人手不足で、アジアやアフリカからの「移民看護婦」が急増している。昨年一年でイギリスは七四〇〇人、オランダは二〇〇〇年に九七人（介護士を含む）を受け入れ、ノルウェーは今年一月にポーランドと約五〇〇人の看護婦の受け入れ協定を結んだ（読売新聞朝刊・二〇〇一年三月七日）。だが、待遇面では言葉や慣習などの壁が高く、ＥＵ以外の出身者には自治体参政権もないため、劣悪な職場に集中する傾向がある。また福祉予算の増加や雇用不安の拡大を懸念して、排外主義も高まっているうえ、出身国からは優秀な人材の収奪だとの批判も起こっている。
三つめが最大の問題で「不法移民」や「経済難民」の急増。冷戦の終結後、中東や東欧などからＥＵ諸国への不法移民や難民が急増しており、不法滞在者の数は一八〇〇万人以上に達した。これに伴い、不法入国を手引きしたり、売春や麻薬販売などに利用する地下組織が増殖し、犯罪の温床と化しているため、ＥＵの司法・内相理事会は、不法移民を徹底的に取り締まる方針を決定した。
以上のように、欧州でもわが国と類似した移民問題が新たに始まっている。これに対してＥＵ諸国は「自国に必要な移民は受け入れるが、不法移民や経済難民はより厳しく規制する」という、伝統的な方針を改めて打ち出している。だが、昨今の問題を従来の延長線上でとらえるのはおそらく間違いだろう。この問題はすでに短期的な労働力問題を超えて、むしろ長期的な人口補充対策へと、性格を変えつつあるからだ。
国連経済社会局が昨年三月にまとめた研究報告『補充移民、国際人口移動は人口減少・高齢化を救えるか？』によると、米国以外の主な先進国では、低出生率と寿命の延びで、人口減少と高齢化が一層進んでいくという。このため、ＥＵが一九九五年時点の生産年齢人口（一五～六四歳）を五〇年後も維持するには、総計七五〇〇万人、毎年約一六〇万人の移民受け入れが必要になる。日本でもピーク時の二〇〇五年の人口を五〇年後も維持するには、総計一七一四万人、毎年平均約三一万人を受け入れねばならない、という。
とすれば、外国人をどう受け入れるか、さらには「国民国家」から「多民族国家」への移行をどう進めるか、という問題は、日本はもとより、世界の先進国に広く共通する、二一世紀的な課題なのである。
●「受け入れ」で何が問題なのか
では、外国人労働者の受け入れで、一体何が問題なのだろうか。
八〇年代以降の論争を振り返ってみると、単純労働者の受け入れを肯定する側には「世界のＧＮＰの一割を占める以上、受け入れる義務がある」、「一部職種の人手不足や高齢化を補うには受け入れが必要」、「不法就労者の増加で低賃金や不法手配者が増加している以上、一定の職種と人数に限って入国を認めよ」など経済的、短期的な視点が多かったが、「外国人を受け入れて、社会構造の国際的な受容性を高めよ」という社会的、文化的な視点もすでに提起されていた。
一方、否定論としては「低賃金の単純労働者を受け人れると、日本人の雇用不安や労働条件が悪化する」、「好況時に大量に受け入れると、不況時の失業率が高まる」など雇用・経済問題のほか、「定住して家族を呼びよせると、教育や社会保障問題の拡大、第二世代という新国民の増加、特定地域に集中居住するゲットーの形成、犯罪の増加や風紀の乱れ、出身国文化の持ち込みによる文化摩擦など社会問題が拡大する」、「宗教、人種、言語など、深刻な国際問題を国内に持ち込む」といった社会的、文化的な反論も多かった。
さらに出身国に対しても、「外国人労働者の送金で国際収支が改善する」、「帰国による技術移転で出身国の社会・経済開発に貢献できる」などの肯定論がある一方、「経済発展に必要な有能な労働力が流出し、途上国の発展を阻害する」、「入国した労働者は帰国を嫌がり、帰国しても単純労働者が多いため、技術移転は期待できない」、「不況時に外国人労働者が帰国すると、失業の輸出となり、国際的非難や国境を越えた社会的コストが発生する」などの否定論も多かった。
結局、これまでの論争では、労働力の不足対策という経済的積極論に対して、外国人とその家族が定住すると、社会保障や公的サービス費用などが増加するうえ、文化的摩擦や社会的混乱も増加するという社会的、全体的な消極論が対立していた。
もともと外国人労働者問題は、七〇～八〇年代の西欧諸国が経験してきたように、「経済的必要性から社会的問題の拡大」へと移行するものだ。六〇～七〇年代の高度成長期に労働力の不足対策として、西ドイツは主にユーゴやトルコから、またフランスはアルジェリア、モロッコ、チュニジアなどから大量の外国人労働者を受け入れた。しかし、彼らの増加と定着が進むにつれて、失業問題や就業条件などの経済的問題が拡大し、また社会保障費や犯罪対策費などの社会的な不利益も増加したため、七〇年代の中頃から両国とも抑制に転じている。つまり、労働力という経済的利益で外国人の受け入れを始めたものの、社会的な損失に気づいて、やがて抑制に転じたというのが西欧の歴史である。
もっとも、日本では九〇年代に入って、外国人労働者の需要が幾分鎮静したため、受け入れの利害をより定量的に分析しようとする研究が進んだ。九二年に労働省の研究会が行った試算では、受け入れを「出稼ぎ」「定住」「統合」の三段階に分けて、費用と便益を計量的に比較している。
それによると、五〇万人の出稼ぎ労働者を受け入れた場合、在留による「出稼ぎ」期の外国人が支払う税金や保険料などの便益は三二六六億円、彼らが享受する国・地方のサービスや給付などの費用は八〇六億円で二三六〇億円の利益。「定住」期には三一六六億円の便益に対して、六五三〇億円の費用で三三六四億円の不利益。帰化をめざした「統合」期には二九八九億円の便益に対して一兆四一八億円の費用で七四二九億円の不利益となる。つまり、在留なら利益が出るが、定住や帰化では大幅な赤字になるという結果が出た。
但し、この試算の費用には、国や自治体の負担分だけで、企業などの負担は含まれていないから、費用の額はさらに増加する。他方、公的年金保険料も参入されていないから、外国人労働者が高齢期に達するまでの便益は、なお拡大する可能性がある。結局、こうした計量的比較では費用・便益の範囲をどこまで広げるかで、結果が大きく異なってくる。まして数値化の難しい社会的、文化的な争点まで加えるとなれば、その答えは単純ではない。
となると、外国人の受け入れの是非をより整合的に検討していくためには、少なくとも1)経済的次元（労働力や購買力の拡大という利点、失業率上昇や低賃金化などの欠点）、2)行政的次元（租税・社会保障費・社会保険料などの便益、教育・犯罪対策・年金給付などの費用）、3)社会的次元（国際的な受容性の向上や異文化接触による文化的活性化などの利点、宗教・人種・言語問題の拡大や犯罪増加・風紀紊乱などの欠点）の三つの次元でまず得失を比較し、そのうえでさらに総合的・全体的な判断をすることが必要だろう。
●新しい動向にどう応えるか
以上の文脈の中に、わが国の最近の動きは、どのように位置づけられるのだろうか。
ＩＴ関連技術者については、もともと専門的・技術的職種であり、かつ知的で高所得階層でもあるから、法制上も議論上もさほど問題はない。問題はむしろ、他の先進国に伍して優秀な人材を確保するため、他国以上に魅力的な条件をいかに提供できるかであろう。その時問われるのは、家族の暮らしや教育問題といった、より生活次元の対応なのである。
二つめの技能的労働者は単純労働者であり、法制上は認められないから、基本的には３Ｋなどの特定職種の受け入れ是非という、従来の問題点の延長線上にある。だが、技能的職種についての国内需要は、人口減少や高齢化の進行で今後急増していくから、従来とは別の視点から、改めて検討し直さなければならない。そこで、農漁業などへの労働者については、技能実習制度の拡張や運用の柔軟化、在留資格への格上げなどが検討の対象になる。また介護労働者については、国内の供給力の見通しを確認した上で、人材の適格性の判断や技能認定のしくみ、最低賃金保証制度などを、新たに検討することが必要だろう。
三つめの購買者としての外国人には、二つの期待がかかる。一つは長引く消費停滞や人口減少に伴う内需縮小、とりわけ若年消費者の減少を補うために、外国人の消費力へ期待する視点。この視点から見ると、専門的技術者やその家族は比較的高所得であるから、それなりの効果が期待できる。だが、単純労働者は低所得階層に集中しがちだし、母国への送金もかなり多いから、生活必需品以外の分野では過大な期待は無理だろう。
もう一つは世界市場をリードできる商品開発力の維持・拡大のために、一定規模の国内市場が不可欠という視点。この立場になると、市場維持という量的補完を超えて、異文化との接触による発想力の拡大や多民族化による価値観の多様化という、より本質的な問題に発展する。つまり、文化摩擦や社会的混乱さえも有効に活用していくような、思い切った対応が必要になってくる。
四つめの補充移民は、本格的な人口減少社会に対応して、より広範な社会的視点から改めて受け入れを進めようとするもので、従来の議論をはるかに超えた問題だ。ここではまず「人口補充力」としての受け入れとして、急減していく人口をともかく遅らせようとするマクロな視点に加え、人口減少に伴うさまざまな不利益、例えば租税・年金負担層の減少、労働人口構成の歪み、結婚相手の不足、過疎地の拡大といった諸問題を解決するため、目的に適った外国人を優先的に受け入れようとする、ミクロな視点も含まれている。
さらに「文化発展力」とでもいえる視点からは、「外への国際化の次は内なる国際化」という、従来からの発想に加えて、「二一世紀を生き延びる国家を作るため、一定数の外国人を受け入れて文化的活性化を図れ」や、「日本型多民族国家を形成していくために、受け入れが必要」という、より先鋭的な主張も出されている。先の商品開発力とも関わる問題だが、ここまでくると外国人の受け入れによる文化摩擦や社会的混乱は、むしろ当然の課題として受容することが求められる。
このように最近の動向を整理してみると、外国人受け入れ問題はやはり、雇用や消費という経済的次元だけでなく、人口構成や文化の創造性といった国家目標の次元にまで広がっている。
●二〇五〇年の人口目標
では、どのような国家をめざすのか。それを描くには、これまで述べてきたさまざまな角度からの、より詳細な検討が必要だろう。だが、人口予測の視点からみると、選択の幅はさほど広くはない。
日本の人口は、二〇〇五年前後に一億二七〇〇万人をピークに減少し始め、二〇五〇年に九二三〇万人、二一〇〇年に五一〇〇万人にまで落ちる可能性がある（国立社会保障・人口問題研究所・九七年推計・低位値）。ここまで急減するのは“少子・高齢化”のためではなく、出生数が減るとともに死亡数が急増する“少産・多死化”のためである。
もっとも、二一〇〇年の五一〇〇万人という予測は、今後一〇〇年間の政策的対応や社会変化で増減するから、当面の目標は二〇五〇年の九二三〇万人あたりだろう。この規模をどう考えるのか。これについては、おおむね三つの選択が考えられる。
第一は九二三〇万人をそのまま受け入れる立場。現在の人口動向がこのまま進めば、この規模に落ちつく可能性が最も強いから、この急落を前提にしてそれなりの社会を作り上げていくのも一つの選択である。だが、それは一種の“鎖国”主義でもあるから、多民族化が主流となる、二一世紀の先進国とはかなり異なる道を進むことになる。
第二はピーク時の一億二七〇〇万人へと回復をめざす立場。二〇世紀の日本が苦心して築きあげた人口規模を、今後もなんとか維持しようという選択だ。この場合、出生数や死亡数の大幅な改善はまず不可能だから、二〇〇〇～三〇〇〇万人単位で外国人を受け入れるしかない。そうなると、日本という国を新たな「移民国家」に作り変えていくことになるが、果してそれは可能なのだろうか。
この二つが難しいとなると、第三の道は九二三〇万人を基礎にして、可能な限りの回復を試みることだろう。現在の予測値を最低限と考えて、実際に実現できそうな出生数の回復や外国人の受け入れ数を組み入れ、「九二三〇＋α万人」にめざすことである。
では、出生数はどこまで回復できるのか。さまざまな出産回復対策がもし成功したとすれば、スウェーデンなどの先例から見て、合計特殊出生率を毎年〇・一程度上昇させることは不可能ではない。人口換算で約四〇〇万人であるから、九二三〇万人に足すと、九六三〇万人までは回復できるかもしれない。
他方、外国人をどの程度受け入れるのか。日本は米国や豪州などの多民族国家ではないから、一つの目安となるのは現在のドイツ（八・九％）、フランス（七％）なみに総人口の七～九％程度、平均八％程度の導入だろう。この場合、九六三〇万人をベースに総数の八％を受け入れると八三七万人で、総人口は一億〇四六七万人となる。結局、第三の道とは、二〇五〇年までに可能な限りの対策を打って、一方では一億人国家を維持しつつ、他方ではわが国なりの多民族国家をめざすことだ。
この八三七万人は家族を含む総計である。労働者に換算すると、彼ら一人の扶養率を平均四〇％として、約三三五万人になる。言い換えれば、三三五万人の労働者が必要なら、八三七万人の外国人の受け入れを覚悟しなければならないということである。
現在、わが国に居住している外国人は約一六九万人（二〇〇〇年・法務省）。この中には、韓国・朝鮮籍などの「特別永住者」が約五二万人含まれているから、それを除くと、在留者や永住者は一一七万人。これに不法就労者の推定約三〇万人を加えると、総数は約一四七万人（総人口の一・二％）になる。
このうち外国人労働者は四二万人で、二二万人の日系人のほか、専門的・技術的職種、技能実習などが含まれている（九九年・労働省推計）。上記の不法就労者約三〇万人を加えると、合計約七二万人（総雇用数の約一・〇％）が働いている。
とすれば、第三の道では、二〇五〇年までに外国人労働者を七二万人から三三五万人（四・六倍）へ、家族を含む外国人を一四七万人から八三七万人（五・七倍）へ増加させていく。これを実現するには、二〇〇五年から毎年平均、労働者で約七万人、家族を含めて約一八万人の受け入れが必要だ。この数字はかなり大きい。だが、国連の提案する毎年約三一万人に比べれば、約六割程度である。
●いかに受け入れるか
今後四五年間でこの方向を実現するには、当然、従来の方針を超えた対応が必要になる。
まず労働力の補充対策としては、専門的・技術的労働者を、需要に応じてより積極的に受入れる体制が必要になる。学歴、職歴などの審査の柔軟化はもとより、生活、教育、文化面などでの優遇策も急務だろう。また単純労働者のうち、介護技能者や農漁業技能者については、新たな在留資格を設けて、優先的に受け入れることが望ましい。それ以外の職種についても、社会的需要が増えるに応じて、在留資格を拡大したり、より柔軟に運用することが求められる。
二つめに購買力対策としては、外国人についても、できるだけ国内での消費行動を促すことが目的となるから、従来の一定期限による帰国促進策とは逆に、在留から永住への促進が望ましいし、家族の呼び寄せも有効になる。さらにヤング市場の縮小を最小限にくい止めるためには、若年など特定年齢層を優先的受け入れることが必要だろう。
三つめに人口補充力という点では、人口減少を補うためのあらゆる対策が求められる。最も実現性の高いのは、環太平洋地域に約一五〇～一六〇万人居住している日系人を受入れ、帰化を促進することだろう。その他の外国人についても、日本人と共生が可能な在留者については、定住や帰化を促すことが必要になる。その場合、少なくとも永住者に対しては、参政権や公務員任用権などを拡大していかねばならない。
また人口減少に伴う人口構成の歪みを補うためには、年齢層による優先受け入れや、毎年の定期的な同数受け入れなどを実施することが有効である。より直接的に人口減少を補うためには、出生率向上をめざして国際結婚を促進したり、家族の継続のための国際養子縁組なども検討すべきだろう。
四つめに文化発展力の点では、ある程度の社会的摩擦や文化的混乱を覚悟したうえで、専門的・技術的労働者の増加は勿論、文化・芸術関連の外国人の滞在・在留条件も緩和して、いっそう多様な人材を受け入れねばならない。また文化や知的能力の開発のためには、欧米だけでなくアジア、アフリカ、中南米など、より多様な地域からの受け入れを推進すべきだろう。さらに、こうした人材を積極的に活用するためには、日本人や日本文化への社会的、文化的「統合」をあえて強制せず、むしろ外国人の文化、慣習、能力などによる刺激を積極的に受け止めて、多様な文化の「共生」をめざすことが必要になる。
以上の四つは、今後わが国が直面する外国人受け入れの対応方向だが、それにはまず外国人を受け入れる現在の制度、つまり在留・永住・帰化の三段階を整合化して、日本人と共生しうる外国人がより居住しやすい体制を作り出していかねばならない。例えば、在留や永住の正規の資格をもつ外国人には、健康保険や年金などの社会サービスの受給を保証する経済的権利はもとより、公的な雇用機会や公民権の行使などの法的・社会的権利もまた保証する、より総合的な対応が求められる。とりわけ社会保障では、保険料だけ負担させて、受給時には帰国を促したり、一時金を支払わないというような制度的不備は、早急に改善すべきだろう。
外国人労働者や移民問題は、雇用や購買といった短期的、経済的視点を超えて、二一世紀の国家目標という、より長期的な枠組みのもとで検討されねばならない。
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