起業動向事例研究2001
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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY

寝袋型の「みのむしふとん」で躍進する…ワタセ(2001.12)

  寝袋を改良した、ニュータイプの布団を開発して、高額寝具市場を開拓しているベンチャー企業がある。滋賀県安土町の潟純^セ(辻貴史社長)だ。

同社の新型布団セット「みのむしふとん」は、小判形の掛け布団と敷布団をファスナーでつないで寝袋状にした寝具。大人用は一・二メートル×二メートルで、自由に寝返りを打てる広さ。掛け布団には手や足を出す開口部や、リモコンや読みかけの本などを入れる大型ポケットも付いている。肩口が冷えず、ズリ落ちる心配もないから、寝癖の悪い人でも安心して眠れる逸品だ。

価格はカバーなど七点セットで、身長一一五センチまでのキッズ用が四万五〇〇〇円から、同一五五センチまでのジュニア用は六万五〇〇〇円から、大人用は九万三〇〇〇円から、カップル用は一四万五〇〇〇円から。

辻社長は一九七八年、二七歳でUターンして家業の「綿清」を継いだ四代目。家業を企業へ育て上げようと、八九年に「ねむねむはうす」を開店して新しい眠りのコンセプトを提案、九七年には「コットンボール」を開店し、輸入家具や輸入雑貨を取り入れたライフスタイルを紹介したうえ、九八年には自ら「ふとん博物館」も開設して、寝具業の新たな方向を模索してきた。

その過程で「布団が庶民に普及して四〇〇年間、ずっと形が変わっていない。ストレスの高い現代社会で、質の高い睡眠を提供するには、保温性、通気性、殺菌効果などの機能性とともに、“胎内復帰”願望を十分満たす、心理的な安心感の高い寝具が必要だ」と痛感。「立体的な睡眠空間」という、快適で親切な寝具コンセプトで、寝袋型の布団を思いついたという。

 二〇〇〇年に滋賀県から中小企業創造活動促進法の認定を受け、研究開発費としてベンチャー向け低利融資を獲得。大手寝具メーカーの協力のもとに、約一年間かけて開発したのが「みのむしふとん」。早速、滋賀県産業支援プラザ主催の「ベンチャービジネスプランコンペ二〇〇一」に出品したところ、「低価格の輸入品が増える時代に、高付加価値で価格を維持できる新商品」と高く評価され、優秀賞を与えられた。

 そこで、今年の一月から発売に踏み切ったが、高額にもかかわらず、約三カ月で一〇〇組を超える販売成績を上げた。「風邪をひかなくなった」とか「安心して眠れる」などの礼状とともに、オーダー品の注文も多かったため、今秋から大人用のほか、キッズ用、ジュニア用、カップル用などを追加して、本格的な販売に乗り出した。全国的な市場を開拓するため、インターネット販売も開始した。

 こうした積極戦略で、三年後に五億円、五年後に一〇億円の売上げを目指している。「当社は零細企業ですが、やがては日本の寝具業界を変えていきますよ」と、辻社長の意気は高い。


デジタル染色技術で新ビジネスモデルを構築する…ディー・ファッション(2001.11)

銀塩写真やデジタル写真を写真店に持ち込むと、高精彩のプリンターで染色して、特注のTシャツに仕上げるサービスが、「写真の新しい楽しみ方」として注目を集めている。

東京・京橋のディー・ファッション(一筆芳巳社長)が、富士写真フイルムや日立製作所など六社と組んで、今年八月から始めた“デジタルプリンティング・サービス”だ。同社が開発した特殊インクによるデジタルテキスタイル技術を応用して、洗濯しても色落ちせず、光や摩擦にも強い製品を作りだした。価格はTシャツ込みで一枚二三〇〇円前後。

一筆社長は京都・織物屋町で一九三一年に絞り染め業として開業した一筆絞り鰍フ三代目。一九九二年に外装タイルを製造するウペポ鰍創業したが、伝統的な染色技術のハイテク化をめざして、九五年に一筆絞り鰍ニ合併し、ウペポ&マジ鰍設立。京都工芸繊維大学のサポートを得て、布の風合いを損なわずに染色できるインクジェット印刷の開発を目標に、インクの分子を極小化して繊維の中に閉じ込める研究に取り組んできた。

その努力が実って、デジタルの画像データをインクジェット印刷で直接布に染色する、新しいプリント・システムを開発。少量・多品種の製品を短時間に製造でき、染色の型を省いてコストを切り下げるという利点を生み出した。九九年には通産省と大蔵省共管の産業基盤整備基金認定事業にも選ばれている。

そこで、一筆社長は昨年三月、千趣会、日商岩井、日製産業などの出資を得て、繊維・アパレル業界を対象にした情報サービス会社、潟fィー・ファッションを設立。デジタルプリント技術を基礎に、新しいビジネスモデルをめざして、@デジタルプリント生産事業、Aデタルプリントの受発注や生産管理、Bデジタルコンテンツの登録・管理、Cデザイナーへのサポート、の四つのサイトをネット上に構築した。全体をデジタルテキスタイル・ビジネスのポータル(窓口)サイトとして、関連企業群やユーザーをネットで結びつけ、必要なデジタルデータをやりとりしたり、デザインの開発やサンプルの作製を効率化するなど、APS(アプリケーション・サービス・プロバイダー)事業に着手した。

今回、開始したデジタルプリンティング・サービスもその一環。扱い商品は当面Tシャツだけだが、将来はネクタイ、トレーナー、バッグ、ぬいぐるみ、雑貨などにも拡大する計画。営業窓口も写真店に加えて量販店にも広げ、全国で五万店をめざす。こうした対応で、三〜四年後にはグループ全体で一五〇〇億円の売り上げが目標だという。

「ファッションの世界でも、大量生産時代が終わり、多品種少量生産のオンデマンド(個別注文)時代が始まっています。IT技術を駆使して、古きよきものを残しつつ、新しい時代に対応していきたい」と、一筆社長は夢を広げている。


ストレス測定器を開発したベンチャー…センサ(2001.10)

  株価の低迷やリストラの大旋風でストレスが高まる毎日だが、そのストレスのレベルを目に見えるようにした会社がある。金沢市の医療・福祉機器ベンチャー、潟Zンサ(松井和幸社長)だ。

同社が開発したストレス測定器「ビアンカ」は、頭部に金属板のついたヘッドバンドをつけて、両手に棒状の電極を握り、両足は足形の電極におく。両手両足から人体に害のない微弱な電流を流し、各電極間の電気の流れ具合から血行状態などを調べる。

約二分間の測定で、パソコンの画面上に、頭、目、両肩、背中、内臓など七か所のストレス度が、色や数字で現れる。緑ならストレス度五〇%で健康状態だが、赤が濃いほど一〇〇%に近い興奮状態、逆に青なら〇%に近い休止状態を示している。興奮が高いと、頭痛、肩凝り、胃腸の調子が悪くなるが、休止に近づくと、吐き気や食欲不振が起こりやすいなど、ストレス度の高低で身体の変調が診断できる。

意外なようだが、こうした装置の製品化は国内初。価格はパソコンを含んで一二〇万円。健康機器やスポーツ施設、あるいはアロマテラピーなどの効果を調べられるから、当面はそうした分野への売り込みを狙っている。

松井社長は名古屋工大を卒業後、金沢の機械産業メーカーを経て、一九九六年一〇月に同社を設立。金沢大学から博士号も授与された。こうした経歴を活かして、大学や学会などの研究成果を積極的に製品化している。

得意な分野は、光、音、身体の変化などの各種の情報をセンサーで読み取る技術を応用して、さまざまな医療・福祉機器を開発すること。これまでにも、北陸先端科学技術大学院大学と共同して、視線の動きでパソコンを操作できる視線入力システムや、岐阜大学工学部と共同して、骨粗しょう症の早期発見・予防に役立つ骨密度の超音波測定器などを開発している。

経営体制もユニークで、新事業に挑戦する姿勢を常に維持するために、部品生産は全て外注、売り買いは現金決裁が基本。また販売体制も、許認可の時間が短いことから、海外への輸出を中心に進めてきたが、今後は国内ルートを積極的に開発する方針。

「ビアンカ」についても、医療関係者向けに開発されたドイツの製品をヒントに、二年前から研究・開発に着手。二〇〇〇年度に石川県の産業技術等研究開発事業の補助金を受けて、富山医科薬科大学などで臨床実験を繰り返してきた。その努力が実って、今年四月に金沢市で開かれた「いしかわ情報システムフェア2001」へ出品できた。

年内に二〇台の出荷を見込んでいるが、全国に販路を持つ健康機器メーカーなどと提携して、二年後には月一〇〇台の売上げを計画している。「小回りをきかして、個性的な製品を作りだし、大手と対等な関係をめざします」と、松井社長は胸を張っている。


雨傘脱水機を開発した生活系ベンチャー…リーテック(2001.09)

  濡れた傘を差し込み、ボタンを押すだけで、水滴を取り去る雨傘脱水機を開発し、注目を集めている会社がある。山梨県大月市の生活用品開発ベンチャー、潟梶[テック(藤原昭信社長)だ。

「あっ、晴れ。」と名づけられた新製品は、駅の自動改札のようなウォークスルー方式。中央部のスリットに濡れた傘を差し込むと、吸水性のある繊維のベルトが両側から挟み込み、出口までの七〜一〇秒の間に雨水を取り除く。脱水時間は七秒、一〇秒、一五秒の三段階に切り替えられ、傘のひだの内側に溜まった水滴も取り除くことができる。傘の新しさや脱水時間にもよるが、脱水率はおおむね六〜九割という。三段の折り畳み傘以外であれば、どんな傘にも対応可能。サイズは高さ一一八二×幅一〇三二×奥行き四五七ミリで、重さは一三〇キログラム。価格は七五万円。

メンテナンスは、満水感知ブザーつきの水滴トレー(五リットル)に溜まった水を捨てるだけでOK。歩いている間に脱水されるから、お客は玄関で待たずにすむし、店側もビニールの傘袋がいらなくなるから、双方に利点がある。

六月二〇日に百貨店、ホテル、病院などに向けて販売を開始したが、最近では一日に五〜六台が設置され、七月の販売台数は一〇〇台を超えた模様だ。初年度は七〇〇〇台の販売を見込んでいるため、同社では、各県単位で独占的に販売する「地域販売代理店」と、地域を越えて独自の販路を持つ「チャネル販売代理店」(東京や大阪などの大都市圏)の二種類に分けて、代理店を募集している。

藤原昭信社長は、一九四〇年、東京都生まれ。工学院大学の研究室、日立製作所中央研究所などを経て六九年に独立。大手メーカーから研究開発を受託する鞄。原理化や潟eクトロンを設立し、「ターボライター」「コードレスハンダコテ」などのヒット商品を開発してきた。約三〇年にわたる研究で、生み出したアイデアは八〇〇件を超え、自ら特許取得した商品も一〇個に達している。

こうした実績を活かして、一九九九年九月に大月市で、生活用品の開発・販売を行うベンチャー企業を社員四人、資本金七九〇〇万円で新たに設立。ベンチャーキャピタル会社などの投資を受けて、精密モーター減速機の独自技術を活用し、開発改良を重ねて商品化にこぎつけた第一号が、この「あっ、晴れ。」だった。

このヒットをきっかけに、長野県に研究所、東京に東京事務所をそれぞれ開設し、すでに「あっ、晴れ。」よりひとまわり小さく、値段も半値以下の傘脱水機を始め、いくつかの新商品の開発にとりかかっている。「IT関連以外でも、技術力さえあれば、必ず成功するチャンスがありあます。大手メーカーが手を出せない“すき間”商品を次々に開発して、いずれは株式公開を果たすつもりです」と、藤原社長は夢を膨らませている。


血糖値を下げる健康食品を開発…カンニャボ(2001.08)

養蚕業の衰退で遊休化している桑畑を活用して、糖尿病の患者向けに、血糖値を下げる健康食品を開発した会社がある。福島県郡山市の健康食品メーカー、潟Jンニャボ(宗像芳見社長)だ。

神奈川県衛生研究所によると、乾燥させた桑の葉には、カルシウムや鉄分など多量のミネラル分に加えて、血糖値を抑えるデオキシノジリマイシン(DNJ)が含まれており、特にDNJはこの植物特有のものだ、という。

この研究の実用化をめざして、同社では福島県ふるさと産業開発事業から二二五万円の補助金を受け、ほぼ一年がかりで新商品を開発した。桑の葉のエキスに、漢方薬に使われるタラの芽やユキノシタの粉末を混合して、血糖値を下げる錠剤だ。血糖値を下げるインスリンをもじって「クワスリン」と命名。価格は一瓶三九〇〇円(税込み)。

郡山市内には、一九八〇年に二二九五世帯の養蚕農家が、九五五ヘクタールの桑畑を栽培していたが、昨年には三一世帯、九三ヘクタールに激っている。そこで、残った農家五軒に遊休桑園活用組合を設立してもらい、原料となる桑の葉の生産を委ねている。

潟Jンニャボという奇妙な社名は、阿武隈山系の桑畑にしか生息しないという、珍しい陸の巻き貝に因んだものだ。つぶして食べると、「医者でも治らない肝臓病が治る」とか「二日酔いに効く」と、この地方では昔から言い伝えがあった。

一九三三年生まれの宗像社長は、地元の養蚕農業共同組合を退職後した後、持病の肝臓病をカンニャボで改善したことから、桑とカンニャボの生態研究に没頭した。一九九〇年に有限会社を作って、カンニャボを粉末化した漢方薬や、カンニャボ・エキスのドリンクなどを売り出した。九三年の東洋医学会で、山形大学医学部の研究チームから、カンニャボに肝障害の抑制効果があることが発表され、医学的にも有効性が認められた。そこで、九四年に潟Jンニャボと社名を変更。

二〇〇〇年春には、約一年の研究を経て、カンニャボとウコンを主成分とした健康維持食品「のんべぇ助(たすけ)」を開発。二つの主成分に加えて、ビタミンが豊富で整腸作用のあるビール酵母や、漢方薬の材料となる“田七ニンジン”も配合した。一粒二五〇ミリグラムで、飲酒前に二粒服用すると、大酒飲みも肝臓を痛めないという優れもの。価格は一二粒入り小袋で五〇〇円、小袋五セットで一九〇〇円。

原料のウコンについても、郡山市内の約二〇軒の農家に生産組合を作ってもらい、桑畑で殖やしている。以上の経緯から、同社の商品は、郡山市特産品づくり推進協議会でも承認され、福島空港など県内各地で売り出して、郡山の名物をめざしている。

「今後も地元の特産物を活用して、新しい健康食品を次々に作り出します」と、宗像社長は夢を語っている。



茶髪チームが開発したゴーグルがヒット…山本光学(2001.07)

茶髪やノーネクタイの若手社員に開発を任せて、ヒット商品を作り出した会社がある。東大阪市の山本光学梶i山本為信社長)だ。

ヒットしたのは、スノーボードやスケートボードなど“ニュースポーツ”用のゴーグル。「新商品は、競技ごとに微妙に違うファッションの差を、敏感に見分けられる感性に任せよう」と考えた山本社長は、九九年に社内公募でスケーボー、サーフィン、バス釣りなどニュースポーツが好きな八人の若者を集め、通称「茶髪チーム」を発足させた。

社内外から「社長の道楽だ」との批判もあったが、「社会の変化に柔軟に対応できる、変わり身の早さこそ中小企業の強み」と初志を貫いた。その結果、メンバー自身が欲しいと思うような、斬新なデザインのゴーグルが次々にヒット商品となり、同社の中心ブランド「スワンズ」と並ぶ、新ブランドが誕生しそうだ。

茶髪チームの発足には、山本社長の思い入れがあった。一九一一年(明治四四年)にレンズ研磨の下請けとしてスタートした同社は、三五年に会社組織に衣替えして本格的に創業した。戦前は炭鉱や軍需工場用の防塵メガネを作っていたが、戦争で工場は閉鎖。戦後は水泳用ゴーグルで再出発したものの、主力商品はやはり産業用メガネだった。

創業者の孫の山本社長は、六七年に同社に入社した時から、「これからはスポーツ・ゴーグルの時代。曇らない商品を開発しなければ」と考えていたという。いろいろと模索していた折、新聞で「車用の曇らないフロントガラスを開発」との記事を見て、直ちに開発元である日本板硝子と交渉。七一年に技術提携して、札幌五輪の前年に商品化に成功。「スワンズ」ブランドでドイツの国際見本市に出品したところ、現地の雑誌に取り上げられて、一気に知名度が上がった。

この見本市で「ゴーグルにはデザインも大切」と気づいた山本社長は、機能性に加えて、ファッション性にも力を入れ始める。それが実って、七六年のインスブルック冬季五輪で、ロジ・ミッターマイヤー選手が使用した同社の商品が評判となり、翌年には全米ナショナル・スキーチームの公式用具にも認定された。ファッション性重視の背景には、こうした経緯があったのだ。

八五年に社長に就任した後も、新商品の拡大に努め、現在ではスポーツ用が五割を超え、産業用が三割、残りが一般用。ゴーグルの国内シェアでは、OEM(相手先ブランドによる受託生産)を含めて、スキー用が五割、水泳用が六割に達している。

同社には、レーザー光線から目を守る産業用メガネを初め、溶接用、防塵用、防煙用に光を制御するレンズ技術や、高強度、耐熱性などに対応したレンズを作る技術が蓄積されている。「こうした蓄積をを活かして、今後は新領域に挑戦します」と、山本社長は意欲を燃やしている。


超高圧技術で二一世紀型加工食品をめざす…越後製菓(2001.06)

  平成一二年度の「食品ヒット大賞・新技術・食品開発賞」(日本食糧新聞社)に「越後のごはん」が選ばれた。レンジ用の「パック入りごはん」だが、従来の熱処理方式ではなく、超高圧処理という新技術で作られた、全く新しいタイプの加工食品だ。

高圧処理で処理すると、米粒の形を残したまま、細胞壁やアミロプラスト膜などを破壊して吸水を促進させるから、粘りの強い「ごはん」ができる。水分が次第に粒内へ浸透するため、製造後数ヵ月たっても、電子レンジで炊きたて以上の粘りが出る。微生物的な無菌状態にもできるし、原料米に含まれるβ‐アミラーゼやグルタミン酸脱炭素酵素などの酵素活性化槽を使えば、新たな栄養素を米粒内に増加させて、種々の目的に合わせた製品の製造も可能だ。

そこで、一般家庭では電子レンジで必要な分だけ炊きたて以上のごはんが食べられるし、粘りが強く無菌化されているから、消化の良い米飯として病理・療養食、離乳食、幼児食、高齢化食など、新しい用途が期待できる。

この商品を開発した越後製菓梶i新潟県長岡市)の山崎彬社長は、一九六九年に家業の製麺業を継いだ後、切り餅をヒットさせて、総合的な米菓業に発展させてきた。一九八八年に京都大学の林力丸教授の講演「食品加工技術としての圧力の利用」を聞いて、一〇〇〇気圧を超える高圧力の応用研究を開始した。その後、一〇余年を経て、日本で初めてこの技術を実用化し、二〇〇〇年八月に四〇〇〇気圧の超高圧で完全に無菌化した「越後のごはん」を発売した。さらに関連商品として、アレルギー患者向けの「低アレルゲンごはん」や「低アレルゲンパン」、「ふつうに炊ける玄米」なども投入し、昨年だけで約一〇億円を売り上げた。これらが認められて、日本食品化学工学会から平成一〇年度技術賞、社ニュービジネス協議会から「アントレプレナー大賞・優秀賞」などを贈られている。

人口爆発に伴う環境問題や食糧・資源問題が予測される二一世紀の地球社会では、安全な食品の確保が急務だ。圧力加工を使うと、栄養素を破壊しないうえ、異臭の発生、異常物質の生成も起こらないから、細菌、カビ、酵母、ウイルスも消滅でき、食品添加物も不要になる。四〇〇〇気圧以上をかけると、食品の加工と同時に殺菌や保蔵の延長も可能になるから、新しい素材や製品も開発できる。

そこで、同社では、九九年四月から農林水産省、新潟県、長岡市の支援のもとに、加工食品未来産業創造研究会を組織し、米飯のほか、麺類、パン、珍味、生肉、果実、魚肉、野菜加工、漬物などの分野で、超高圧技術を生かした新事業の開発をめざしている。これには、新潟県内の四八社がすでに参加した。

  「将来は官民合同でより大規模な研究所を作り、超高圧技術の拡大に向けて、技術者の育成や新事業の育成を進めていきたい」と、山崎社長はさらに夢を広げている。


教材用「サッカー・ロボ」で新市場を創る…イーケイジャパン(2001.05)

  ペットロボットがブームになっている折、青少年向けに組み立て式のロボット教材を開発して、新市場を創り出した会社がある。福岡県太宰府市の潟Cーケイジャパン(代表・河野孝治氏)だ。

  同社が昨年六月に発売した「サッカー・ロボ」は、部品総点数一六七点。部品の選択で、六本足型、車輪型、ベルト型の三種類に組み替えられる。完成品のサイズはおおむね長さ一六センチ×幅一三センチ×高さは一二センチ。周波数が切替えられる電波式リモコンで三段階に速度が調整でき、電波を混線せずに複数対戦のサッカーゲームが楽しめる。

 八〇ページを超える添付マニュアルには、ギアや電子回路の仕組み、リモートのメカニズムなどの図解に加えて、ロボットの歴史から未来図まで解説してあり、科学教育やモノ作り教室のテキストとしても十分利用できる。価格はキットとともに四九〇〇円。

  この商品は、ロボカップ国際委員会(本部スイス)の公認も取った。同委員会は「ロボットが人間に勝つ」ことをめざして、世界各地でロボットによるサッカー大会を開催しており、九九年からはジュニア大会も開始した。このジュニア大会に対応するロボット教材の第一号となったのだ。

  同社は電子ホビー商品や教育用電子キットの専門メーカーで、前身は家電販売の嘉穂無線鰍フ一部門。約三〇年にわたり、青少年の科学振興をめざして組立型ロボットの開発を進め、七三年に電子工作キット「エレキット」を、また八〇年にはロボット教材キット「MOVIT」シリーズを発売してきた。河野代表は地元の工業高校を卒業後、嘉穂無線に入社。八七年よりエレッキット部門の営業責任者となり、「未来のエジソンを育てる」という明確な目標で業績を伸ばして、九四年に分社・独立を果たした。

  「MOVIT」シリーズは、光や音のセンサーで動くタイプ、六本足のペットタイプ、専用コントローラーで動かすアームタイプ、自由に動きを制御できるプログラムタイプなど約三〇種類。サッカー・ロボもその一つだ。いずれも部品や電子回路などをユーザーが組み立てるキットだが、ロボットブームにのって、昨年は七五〇〇〇台を出荷、九八年の二倍を売り上げた。

 従来は学校向けの教材卸や生協などが中心だったが、最近では東急ハンズなどを通じて一般ユーザー向けが伸びている。輸出も二〇〇〇年度には約一一万台と、国内向けを超え、サウジアラビアの技術系政府職員の教育用や、マレーシアの公立小学校向けに納入した。

  サッカー・ロボは、初年度一〇万台を販売したが、この四月には自動的にボールを見つけてゴールを狙う、自律型ロボットも加えた。今後は教材販売網を生かして、海外普及も図る計画だ。ロボカップ国際委も「低価格で高機能のサッカーロボが普及すれば、大会が発展する」と大いに期待しているという。


環境対策に適応した「洗える畳」を開発…アクティブ(2001.04)

日本文化の象徴である畳の需要が低迷している。その中で、飲み物や食べ物をこぼしても、丸洗いで簡単に汚れを落せる、新タイプの「洗える畳」を商品化し、一躍注目を集めているベンチャー企業がある。三重県四日市市の潟Aクティブ(諸戸功社長)だ。

この畳は、イグサの代わりにストロー状のポリプロピレンを編み上げた畳表を使い、特殊発泡樹脂をアルミ箔ではさみ込んだサンドイッチ構造を床材にしている。疎水性のあるプリプロピレンを使ったため、中性洗剤で汚れを簡単に落とせるうえ、天然イグサに近い感触も出せる。イグサ模様のビニール製シートを畳表にした製品は、すでに発売されているが、イグサと同様に編み上げた製品は初めてだという。現在、特許申請中。

厚さは一四ミリ〜一六ミリ。重さは一畳あたり三キロで、通常の製品の七分の一程度。子どもやお年寄りでも簡単に持ち運びできる。断熱・保温・耐火性にも優れており、アトピー性皮膚炎の原因でもあるダニやカビの発生も防げる。食べ物や汚物で汚しても、丸洗いして乾燥させ、元に戻せば新品同様になるから、永い間衛生的に使える。価格は通常の商品より二割高の一畳一万八〇〇〇円。

同社は、ビル、マンション、アパートの建物巡回点検、清掃、補修などの請負業。諸戸社長は地元の高校を卒業した後、幾つかの企業でのサラリーマン生活を経て、一九八五年に潟Aクティブを設立、現在一万戸の管理を担当している。昨年九月に同県多度町の自動車部品製作会社・石川産業汲ニ「洗える畳」の共同開発に成功し、販売・レンタル事業を開始した。

この製品の開発にあたって、諸戸社長は「不要になれば無料で回収して、新しい畳に再生できる完全リサイクル商品」であり、かつ「ダイオキシンが一切発生しない素材の使用」をめざしたという。また石川産業汲フ石川正敏会長は、「日本文化の原点である畳文化をもう一度掘り起こすため、現代人にマッチした畳を追求した」と、文化面への影響を強調している。

用途としては、福祉・介護施設、レジャー用宿泊施設、学校、食堂など汚れを気にする建物や住居での使用が一番多い。また板の間のお座敷化や、災害時の緊急避難施設の設営にも活用できる。さらに衛生管理や汚れを気にしてフローリング仕様にしていた老人保健施設などにも応用できる。畳の使用で、お年寄りや子どもたちに日本家屋の温かさが提供できる、というわけだ。

こうした斬新さが評価されて、今年一月には三重県から中小企業創造活動促進法の対象企業に認定された。これにより、県の新産業創造資金や政府系金融機関の低金利融資が活用できることになった。現在は委託生産が中心だが、年内に生産体制を整え、「二年後には年間二億四〇〇〇万円の売り上げをめざします」と諸戸社長は胸を張っている。


大豆とキノコで抗ガン効果の高い健康食品を開発…アミノアップ化学(2001.03)

昨年九月、抗ガン性物質「GCP(ゲニステイン高含有担子菌多糖体)」が、商品名「ゲノムマックス」として、全国の調剤薬局などで発売され、ガン治療に画期的な健康食品として注目を集めている。一日の投与量は二グラムで、二五〇ミリカプセルを八カプセルに分けて飲用する。小売価格は一カ月分で二万八〇〇〇円。

この食品を開発したのはアミノアップ化学(札幌市・小砂憲一社長)。大豆に含まれるイソフラボンの主成分ゲニステインには、従来から抗腫瘍効果が認められているが、血管新生抑制作用(ガン自体の血管増加を抑制する作用)、高指血症、心疾患、高血旺、骨粗鬆症の予防などの治療効果も高い。だが、生体に吸収されにくいという欠点があったため、同社では、椎茸や霊芝などに含まれる担子菌と混合培養する製造法を開発し、吸収性を向上させることに成功した。

開発のきっかけは、新入社員の提案だった。ヒラメキを感じた小砂社長は、一九九七年四月に研究チームの立ち上げ、同社が保有する数百種類のキノコの菌糸で一つ一つ培養実験を繰り返し、約三カ月で最も効率的にゲニステインを分解する酵素を持つ菌糸を特定した。

しかし、酵素分解で生まれた新物質「GCP」の抗ガン効果が未知数だったため、さらに実験を繰り返して、九九年二月、北京で開かれた国際新生血管学会で、マウスのガン細胞の成長抑制効果を発表した。これが注目され、アメリカのコロンビア大やカリフォルニア大、ニュージーランドのオタゴ大などから共同研究の申し入れが相次ぐようになった。

同社は、酪農学園大学出身の小砂社長が一九八四年に生物活性化剤メーカーとして設立。農水省OBらを研究者に迎え、植物生長促進剤の製造を始めたが、設立後間もなく、AHCCとアレルギーに効くシソの葉エキスという二つの新商品の開発に成功した。

AHCCは数種類のキノコの菌糸を培養抽出した免疫賦活物質で、日本ガン学会などで抗ガン効果を認める発表が相つぎ、これを主成分とした健康食品「イムノゴールド」は国内約七百の病院で使用されるヒット商品となった。米国ではエイズ治療薬として使う研究も進められている。

このため、海外での販売対策として、九五年からロンドンに駐在事務所、北京に臨床試験用の医療施設などを開設した。また九九年一〇月には、積極的な経営手法が認められて、札幌商工会議所から第一回「北の起業家大賞」にも選ばれた。

今回発売した「ゲノムマックス」も、ガン治療で医薬品と健康食品の併用を推奨する医療機関が増えるにつれて、急速に伸びている。現在の売上高は二四億円(二〇〇〇年五月期)だが、「二年後には二〇〇億円を達成します」と、小砂社長は目標を掲げている。


ニュータイプの健康食品に進出…八幡物産(2001.02)

  健康への関心が高まっている折、ニュータイプの健康食品を開発して、一躍注目を集めているベンチャー企業がある。米子市の八幡物産梶i八幡滋郎社長)だ。

 この商品は、中国産アガリクス茸入りの即席健康みそ汁「元気の友」、家庭で健康豆腐を作れる「畑の大将」、大豆をまるごと使った缶入り「豆乳ドリンク」、料理や栄養剤などに使える「大豆と焙煎玄米の混合粉末」などで、いずれも消費者のためのよりよい食品、「ウェルフード」をめざしている。

 同社は、ロイヤルゼリー、クロレラなどの栄養補助食品の売り上げを、テレビショッピングと会員組織による通信販売で、五年間に四倍にも伸ばしたという注目企業。今回の新商品もこの会員組織を通じて発売し、初年度は三億円の売り上げを見込んでいる。

  八幡社長が銀行員から脱サラして、同社を設立したのが一九七五年。栄養剤を包むソフトゼラチンカプセルの製造技術を持つ米国企業の極東支配人が、たまたま親戚だったことから、国内販売権を得たのがきっかけだった。

 初めは製造・卸販売だけだったが、八七年に某企画会社からテレビショッピング向けの商品を依頼され、直接販売を開始した。だが、間もなく企画会社が倒産。九二年から自らテレビショッピングを始めた。

  「一度買ってしまえば、それ以上は売れない耐久消費財などと違って、毎日減っていく栄養補助食品は、テレビで宣伝すればするほど注文が伸びる」と気づいたからだ。そのうえ、代金引換制度を活用すれば、売り上げ回収も確実だし、値段を多少下げても直販なので利益率が落ちることはない。

  そこで、今ではテレビショッピング番組の制作を六社に委託し、全国各局で月間一八〇本を放送している。二〇〇〇年八月期には、制作・放送費に約一〇億円を投じたが、その効果は著しく、新規購入者が一年間で八万人も増え、会員数は三〇万人に達した。

 最大の戦略は、こうして増やした会員を積極的に活用するため、独自の顧客管理システムを構築していること。一人ひとりのユーザーの購入履歴をデータベース化して、定期的にダイレクトメールを出す。高額購入者には年四回、料理や旅行、ガーデニングなどの情報を盛り込んだ健康サポート雑誌『SAPO』を送ったり、特製カレンダーや、鳥取県特産の二十世紀梨などの特産品も配っている。

  また会員からの電話注文に加えて、三六人のオペレーターが時々電話をかけ、質問や意見を聞き、注文も受けつける。顧客と直接対話を増やすことで不満や好みを集め、新商品の開発にも役立てるというしくみ。こうした独創的な営業手法が高く評価されて、二〇〇〇年五月には中国地域ニュービジネス大賞に選ばれた。

 新商品の投入で「三年後には会員五〇万人、売り上げ五〇億円を実現し、店頭公開をめざします」と、八幡社長の夢は広がっている。


ビタミンC利用の新型浄水器を開発した…アラミック(2001.01)

家庭でも「おいしい水が飲みたい」というニーズに応えて、ビタミンCを利用した新タイプの浄水器が話題となっている。

この浄水器「ビタミックス」は、ビタミンCの溶液を蛇口で流水に混ぜ合わせ、水道水の中の残留塩素を瞬時に分解除去するもの。フィルターを使わないから水量が落ちないし、雑菌の繁殖も防げる。塩素を除去した後の酸化ビタミンCは、ビタミンCとほぼ同じ性質を持っているから、シャワーや入浴用に最適と、若い女性たちの間で人気をよんでいる。

ビタミックスには、台所用と洗面所用の二タイプがあり、いずれも水道の蛇口にワンタッチで取り付けられる。価格はビタミンC一〇〇グラム付きで各五〇〇〇円。詰め替え用のビタミンCは一〇〇グラム二五〇〇円。

二〇〇〇年九月に、この商品を発売したのは潟Aラミック(大阪府箕面市、大久保貴泰社長)。大久保社長は法政大学を卒業後、百科事典のセールス、学習塾の経営などに関わり、何度か倒産の危機にも瀕したが、八六年に潟Aラミックを設立。以後は脱臭、抗菌、浄水などユニークな家庭用品を次々に開発して、急成長を遂げている。

いずれの商品も、大久保社長が自分だけの研究室で誕生させたものだ。研究開発のプロセスは社員にも一切見せないし、プロトタイプもすべて一人で製作する。特許事務所と連携して、申請可能なテーマに絞って研究している。その中から、大手企業が見落としていた原理を発見したり、新たなメカニズムを開発して、幾つかの新商品を創造している。

最初にヒットしたのは、米びつ用防虫剤「米びつ先生」。生分解性のプラスチック容器に、唐辛子エキスやニンニクエキスを主成分とする防虫・防カビ剤を入れ、コクゾウムシを駆除するとともに、米の酸化や劣化も遅らせるという、画期的な商品。九四年の発売以来、毎年二〇〇〜三〇〇万個を売り上げている。

最近の自信作が、ビタミンCを使った残留塩素の除去商品。ビタミンCには塩素を除去する効果があるが、微量に溶出させるのが難しく、実用化が困難視されていた。ところが、大久保社長はちょっとした工夫で、充填したビタミンCを均一スピードで溶出させるコントロール弁を発案。二〇〇〇年の春、浴槽用の「入浴美人スフィア」と、シャワーヘッドの「シャワー美人クリエ」を商品化した。二つの商品は現在、百貨店やスーパーなどで人気が上昇中だ。この波に乗って発売したのが第三弾の「ビタミックス」だった。

 同社の商品は「大手企業では決して生まれない」と大久保社長が自負するとおり、いずれもユニークな発想に基づいている。このため、今後は大手メーカーと組んでOEM(相手先ブランドによる生産)にも乗り出す。また、過去に取得した一二〇を超える知的所有権をフルに活かして、パテントビジネスにも挑戦する計画だという。


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