病人用のベッドセンサーに進出する…ホトロン(2003.01)
高齢者介護への社会的な関心が高まっている折、ベッドからの転落事故や痴呆による徘徊(はいかい)を予防するベッド用センサーが開発され、注目を集めている。
「おき太君」というこのセンサーは、二九センチ×八五センチ、厚さ三ミリのシートで、シーツやマットレスの下に敷いて使う。センサーからは常に、医療機器へ影響を与えない程度の微弱な低周波電波が出ており、ベッド上の電圧の変化を測定して、病人が寝ているかどうかを知らせる。
病院では、ナースコールの呼び出し装置と接続して、上半身がセンサーから離れると自動的に警告音が鳴る。寝返りなどと区別するため、コールが鳴るまで時間を二~一五秒まで四段階に設定できる。
従来の商品に比べて、①シートを極力薄くするためセンサーとコントローラーを分離した、②電波の影響を最小限に抑えるように独自の回路を付加した、などの利点があり、両方ともに特許出願済だ。価格は一セット八万円。病院や介護施設はもとより在宅介護にも的を合わせて、初年度は一七〇〇セットの販売を計画している。
「おき太君」を発売したのは、自動ドアセンサーのパイオニアである東京・新宿区の㈱ホトロン(本田忠盛社長)。大手電機メーカーで放送用無線機を担当していた本田社長は、自らの技術を活かせる仕事を求めて、六七年に本田電子測器を設立。「床埋め込み式近接スイッチ」を開発して、七五年に販売部門のホトロンも設立。以後は自動ドアセンサーを中心に、タッチ式、赤外線使用の反射式など様々な製品を開発・製造し、同市場で最大のシェアを誇るまでになった。
ところが、最近では建築不況の影響もあって、自動ドア向けの売り上げが低迷している。このため、自動ドアで培った技術を多方面に展開しようと、防犯、車両管理、医療といった分野への進出を考えた。すでに大型駐車場用の車両センサーや、養鶏業者向けの卵カウントセンサーなども開発している。
二〇〇一年一〇月には、中国政府から重要施設の入退室管理システムを受注した。名刺大のIDカードを持った人がアンテナに近づくと、事前に登録してある顔写真や個人データがパソコンに表示されるというもの。入退室管理以外にも応用できるから、中国は勿論、国内での需要も期待できるという。
また同年春からは、アイルランドのトリニティ大学と提携し、「四~五年先の製品開発をめざした中長期間の共同研究」も始めている。九一年、工場を進出させたのがきっかけで、同国の学生の研修受け入れや大学教授らとの交流が深まり、現地にベンチャー企業や販売拠点も作ってきた。この共同研究の成果の一つが「おき太君」である。
「センサーで培った技術を新分野に結びつければ、成長の余地はまだまだ大きい」と、本田社長は同社の未来を力強く語っている。
|