起業動向事例研究2004
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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY

五〇〇〇円の高額手拭いをヒットさせた…エイラクヤ(2004.12)

  一枚五〇〇〇円という超高額の手拭いが売れている。明治~昭和初期のデザインによる祇園会や大文字の送り火、江戸情緒の浮世絵といった、戦前の染色物を、コンピューターで細かく色分解し、布地へ直接インキを吹き付けるインクジェットプリント技法で、忠実に復刻、再現したものだ。

 一般のプリント染めでは型紙が多くなり、昔通りの再現は大変だが、この技法だと色使いに制限がなく、原図並みの色彩が可能。これまではハンカチやスカーフに使われていたものを、世界で初めて手ぬぐいに応用した。ただ一時間に六枚しか染色できないため、小売価格は一枚五〇〇〇円と高くなる。それでも、繊細な図柄が評判をよんで、インテリアやコレクション用に売れている。

  この商品「町家手拭」を発売したのは、創業約三九〇年の老舗、エイラクヤ(京都市・細辻聡和社長)。江戸初期に木綿問屋として創業した同社は、戦後タオル卸として繁盛してきたが、一九八〇年代以降、進物の需要減や安い輸入品に押されて売り上げが落ち込み、九九年三月に債務超過に陥った。

  そこで、先々代社長の娘婿が一四代細辻伊兵衛を継いで社長に就任。入社前にはアパレル会社直営店の店長を勤めていた新社長は、まず自宅を売却して当面の資金繰りに当てたうえ、在庫品のタオルも損失覚悟で安く販売、二〇数人いた社員も八人に減らすなど、経営改革に努めた。

 だが、経費削減だけでは再建は難しく、主力商品の開発が必要だった。とはいえ、欧米の高級ブランド・タオルを扱うには、多額の契約料が必要でとても手が出ない。そこで、思い出したのが蔵に眠っていた約一万種類の手ぬぐい。昭和初期、愛好家向けの通信販売で扱っていたもので、「たばこをくゆらすモダンガール」「スキーで滑る舞妓」など現代にも十分に通じるデザインが描かれていた。その複雑な図柄を再現するため、高級ブランドのハンカチを染色している会社に製作を依頼。二〇〇〇年、本社の一角に「永楽屋  細辻伊兵衛商店」の本店をオープンさせた。

  この店に並べた「町家手拭」は、二~三〇以上の色を使った一枚一二〇〇~二五〇〇円の商品。一、二色で四~六〇〇円の通常の手ぬぐいに比べて圧倒的に高いが、斬新な図柄がハンカチ代わりやインテリア用として、女性層に受け入れられた。京都土産としても定着してきたため、京都市内に三店舗を増やし、〇四年度には黒字経営を達成した。

 成功の要因は、安い輸入品との価格競争を避け、老舗のブランド力や信用力を活用して、高品質の商品へ転換したこと。今後もインクジェットプリントで、さらに多色で細かい図柄の商品を小ロットで生産する計画だが、ファッション性が高いだけに、売れ行きは消費者の好みに左右される。「消費者ニーズを敏感に反映できる製造体制が急務ですよ」と、細辻社長は次の目標を掲げている。


サーファー向け賃貸マンションで躍進する…ユーミーらいふグループ (2004.11)

 神奈川県茅ヶ崎市の海水浴場に今春建設された、サーファー向けの賃貸マンションが、新たな不動産事業として注目されている。
「ブルードゥシェル」と命名された、真っ青な建物は、サザンオールスターズに因む「サザンビーチちがさき」海岸から徒歩一分。共有部分にはサーフボード置き場やシャワー設備、各戸にはドアの内側にボード用のスペース、風呂まで裸足のまま歩けるタイル張りの床面など、細かな気配りがある。

 賃料はワンルームタイプが月九五、〇〇〇円と周辺相場より二割方高いが、すでに満室。総戸数二九戸で、家具付きのマンスリーマンションが七戸あるが、これも夏場はキャンセル待ちの状態だ。

 このマンションは、平塚市の不動産業、ユーミーネットが開発したもの。同社が所属するユーミーらいふグループは、総合建設業の丸山工務所(保坂正和社長)を中核に、アパート・マンション管理、ビジネスホテル、福祉事業などの企業を擁し、湘南地域の賃貸物件のオーナーや入居者へ、質の高い居住空間と多様な生活文化を提案している。

 丸山工務所は、一九七六年の創業以来、建設・不動産業を営んできたが、〇二年から公共事業の受注をやめ、新たなビジネスへ大きく転換した。オーナー向けには、神奈川県内で初の不動産証券化事業を開始。〇二年一二月に資産流動化法によるSPC(特定目的会社)を設立して、賃貸マンション六件を証券化し、一億三、二五〇万円分の公募分を四日間で完売した。〇四年には商業ビルを組み込んだ証券や、大規模ビジネスホテルを開発と運営に分けた証券なども発行し、投資家のリスクを分散する戦略に出ている。

 他方、入居者向けには、昨今、社会問題化している敷金返済訴訟へ対応するため、敷金・礼金・仲介手数料を一切廃止し、一カ月の家賃だけで即入居できるシステム「超家賃人」を全国で初めて採用。〇三年春からユーミーネットで開始し、同社管理のマンション約三、五〇〇室のうち、すでに約二、五〇〇室へ導入している。

 また高齢者向けには、「自立と共生」をテーマにした九室のバリアフリー住宅を藤沢市に建設中。保証金三八〇万円で、家賃・食費・家事代行サービス費などが月額一四万六、〇〇〇円という安さが評判となり、県外からも問い合わせが相ついでいる。

 アイデアに溢れる新不動産ビジネスの展開で、同グループは無借金経営を維持しており、某経済誌が毎年発表する「建設業(年間売上高五〇億円以上)の経営健全度ランキング」で、四年連続県内一位を達成した。

 サーファー向けマンションについても、湘南ブランドの価値を高めるため、今後もさらに拡大する計画だ。「今や斜陽産業といわれている中小建設業も、地域社会に絶対必要な役割を持てば、間違いなく未来産業に変わりますよ」と、保坂社長の顔は明るい。


史上最高精度のサイコロを開発した…入曽精密(2004.10)

 サイコロは、人類にとって最も古い玩具の一つだが、形や材質に歪みがあると、六面の「目」が均等に出ない。この欠点を限りなく修正した、史上最精度のサイコロが日本で発売され、愛好者の関心を集めている。

 一辺一二ミリのサイコロは、①チタン一〇〇%の素材を使用して、不純物の混入による重量の偏りを防ぐ、②六面の「目」を一〇ミクロンの透かし彫りにして、転がす際の慣性モメントや空気抵抗による回転バランスの崩れを防ぐ、といった工夫で、「目」の出る確率を限りなく六分の一に近づけた。

 今春からインターネットの“たのみこむ”サイトで発売しているが、四九、八七五円という高額にもかかわらず、「世界中でここでしか手に入らない」という稀少性が愛好家に受けて、すでに二〇組(二個一組、皮袋付き)が売れている。「目」を彫り込んだ普及タイプ(一九、九五〇円)は、一月の販売開始以来二〇〇組を超えたという。

 この商品「世界最速のサイコロ」を開発したのは、埼玉県入間市の入曽精密(斉藤清和社長)。“世界最速”というのは、F1マシンのエンジン部品用の加工技術と材料を、惜しみなく導入したという意味だ。

 斉藤社長は地元の高校を卒業後、建設会社などを経て八三年に同社に入社。二〇〇二年に社長に就任すると、レーシングカーや人工衛星の部品で、設立以来三〇年間蓄えてきた超精密加工の技術を、世の中に広くPRしようと、アルミ製のバラを開発、初めて消費者市場へ参入した。

 このバラは、三・五キロのアルミ塊から、約六〇時間をかけて一四五ミリの花びらやトゲを削り出すという精巧なもの。CAD/CAMシステムと自社の“職人技”を組み合わせて、独自に編み出した「MC造形技術」の成果だ。だが、価格が数十万円と高くなり、ユーザーが限られた。

 そこで、第二弾として出したのが「世界最速の箸」。F1マシン用の技術で一本ずつ手作りで仕上げた。ゴールに見立てた同素材の箸置き付きでアルミ製が二六、二五〇円、チタン製が五七、〇〇〇円。続く第三弾が「世界最速のサイコロ」で、ギネスブックへの掲載をめざして現在、英国に申請中だ。

 こうした新商品の開発で、従来売り上げの二割程度だった超精密加工分野が急拡大し、九割を占めるまでになった。もっとも、企業向けの生産財に比べて、手間の割には価格が低く、収益にはあまり貢献しない。

 だが、これまでまったく接点のなかった消費者層に、同社の知名度が浸透してきたため、「自分の仕事の成果が目に見える」と従業員の自信が高まり、単純な下請け企業から脱皮できる見通しが強まった。

 「今後もミクロ加工技術を向上させつつ、遊び心を持った消費財を、次々に創りだしていきますよ」という斉藤社長は、次の目標をプラチナ製の“ミロのビーナス”においている。


炭を応用した新製品でオンリーワン企業をめざす…大木工芸(2004.09)

 今春、三つの機能を巧みに組み合わせた、新方式の空気清浄機が、滋賀県のベンチャー企業から発売され、注目を集めている。

 第一は竹炭やカテキンの粉末と加水分解酵素を結合させた「酵素フィルター」で、取り込んだ微生物を溶かす働きがある。第二は活性炭を蜂の巣状に加工した「ハニカムフィルター」で、脱臭やガスの吸収に威力を発揮。第三はプラズマ放電管方式の「オゾン発装置」で、悪臭を分解して、院内感染やシックハウスの予防にも効果がある。

 三重の高機能製品にもかかわらず、外装は手作りのシックな木枠製。二〇畳タイプと一〇畳タイプがあり、希望小売価格は二二万円。すでに大阪府立病院や各地の老人ホームなどへ、約一〇〇台が納入されている。

 この商品「セラ・エア」は、大津市の大木工芸(大木武彦社長)が、成和サプライ(京都市)製のオゾン発生装置を組み込んで開発したもの。大木社長は塗料販売会社に勤めていた時、趣味の絵画を応用して、歩道や壁面に精巧な絵や文字などを常温転写するトランスアート技術を開発。七〇年に二五歳で同社を設立し、京都市内の公共工事やゼネコン、電力会社などにも、同技術を拡販してきた。その努力が実って、九七年には、京都市の目利き委員会から「事業成立可能性大」のAランクに認定されている。

 九六年から龍谷大学と産学交流を進めてきたが、その過程で新たに「炭のパワー」に注目。わずか一グラムで七〇〇平方メートルの表面積を持つ多孔質の炭は、さまざまな化学物質を吸着するから、化学汚染物質の吸着分解や電磁波の遮蔽、水質浄化などに役立つ。そのうえ、三~四年で成長する竹の炭は豊富な資源でもある。

こうした特性を活かそうと、大谷大学の協力を得て、九七年からは竹炭で吸着力を高めた油とり紙、竹炭マドラー、スキンケア製品、洗顔料など、二〇〇を超える炭化製品の実用化にこぎ着けた。このうち、竹炭とカテキンをフィルターに織り込んで院内感染や花粉症を防ぐマスクは、健康ブームに乗って、全国的なヒット商品となった。

 さらに土木分野にも応用を広げて、ヒートアイランド現象を緩和したり雪を解かす歩道用ブロック、軽くて地震の際にも住宅が倒れにくい瓦、ダイオキシン類を吸着し分解する土壌改良剤など、約一〇〇の製品を次々に開発し、着実に売り上げを伸ばしてきた。同時に炭関連の技術で各種の特許を申請、今では国内外で三〇件を取得している。

 今回発売の「セラ・エア」もこうした技術開発の一つ。今後は炭素素材を使った、新しい製品をさらに開発し、五年以内に株式を公開する計画だ。「経済性、利便性、快適性ばかりを追求してきた二〇世紀が終わり、二一世紀には環境に負荷を及ぼさないモノづくりが必要です」と語る大木社長は、炭製品でのオンリーワン企業をめざしている。


防水ダンボールで多分野に進出する…ジャパンパック(2004.08)

 魚介類の輸送で一般に使われている発泡スチロール製容器は、雑菌が繁殖しやすいという欠点がある。これに代わる容器として、富山県のベンチャー企業が開発した、防水ダンボール製魚箱「Nフィッシュ」が、関連業界の注目を集めている。

 この魚箱は、ダンボールの両面をポリエチレンフィルムで包んで防水し、使う度に組み立てるもの。最大荷重は発泡スチロール容器の二倍以上で、使用後にフィルムを交換すると、雑菌を付着させずに数回使える。価格は発泡スチロール容器と同程度の一箱八〇~一〇〇円。フィルムの交換費用が一枚当たり三〇円程度だから、二回目以降はかなり安くなる。今年九月から発売の予定。

 「Nフィッシュ」を開発したのは、富山県滑川市のジャパンパック㈱(長田宏泰社長)。長田社長は約三〇年間、大手ダンボール製造会社で研究開発に携わり、二〇〇件もの特許を取得、うち一〇件以上を製品化した。だが、「研究成果をもっと製品化したい」と、九九年五五歳で同社を設立。当初はクラフトテープの販売などを手がけていたが、九九年度に富山県の補助金三五〇万円を受けて、念願のダンボール製品の開発に着手した。

 二〇〇〇年、金属缶に代わるダンボール製液体容器「Nパック」の開発に成功。ダンボールの内側に防水フィルムを貼り、塗料や接着剤などの液体を密封する。金属よりも軽いので、輸送や保管のコストが削減できるし、小さく折り畳んで処分できるからリサイクルも簡単。このため、金属缶の代替品として、湿気を嫌う調味料用や防さびが必要な金属製品など、様々な分野で使われるようになり、月産五万個を超えるヒット商品になった。

 続いて〇二年には断熱保冷容器「Nクール」、〇三年には切り花の輸送用容器「Nフラワー」を相次いで開発。「Nフラワー」は、下部に防水加工を施して、水を入れたまま花を運べるダンボール箱。茎を水に浸しているから鮮度が落ちないううえ、縦の状態で運べるから花束の形状も保てる。多孔質のゼオライトをダンボールの表面に処理し、花自体から発生して鮮度を落とすエチレンガスも吸収する。現在、生産農家や卸売市場に発売中だが、二~三年後には年間一〇万ケースも夢ではないという。

 こうした積極的な新製品開発で、同社の売り上げは年率三〇~四〇%と着実に伸びてきた。成功の秘訣は、他社にないモノを開発し、それを金属缶や発泡スチロールなど旧製品と同等以下の価格で販売したことだ。そのうえ、同社の製品はどれもが、金属缶より産廃処理が容易で、ごみの減容化にも貢献している。こうした企業姿勢が高く評価されて、今年の春、長田社長は科学技術振興功績者として、文部科学大臣賞を授与された。

 「環境重視の時代には、ダンボールの活用法は無限に延びていきますよ」と、長田社長の目はは近未来を見つめている。


下請け会社から研究開発型企業に脱皮した…つちやゴム(2004.07)

 靴や自動車メーカーの下請け会社が、リサイクル型ゴム弾性舗装材や電磁波シールド(遮断)材など、高付加価値型の新製品を次々と開発し、短期間にユニークな研究開発型企業に生まれ変わった。その秘密は何か。

 弾性舗装材「エコ・ロック」は、廃材のゴムチップを生地に利用したリサイクル製品。アスファルトに比べ、クッション性が八倍も高く、歩行者の膝に負担が少ない。透水性も高く、公園、歩道、停留所の舗装などに最適。とりわけ、水に濡れても滑らないから、学校のプール用舗装材として注目されている。落下しても破損しないため、施工会社には工期の短縮や施工費の削減など利点も多い。

 この商品を開発したつちやゴム(熊本県嘉島町、倉田雄平社長)は、月星化成の下請けとして一九四九年にスタート。八九年から自動車用ゴム部品にも参入し、マツダ向けの製品を拡大してきたが、九〇年に前社長の病気で、デパートに勤めていた子息の倉田氏が企画室長に就任、九四年五月に社長になった。
折から廉価な中国製品が大量に流入し始めたため、倉田社長は「いつまでも下請けではもたない」と、建材商社を経営している岳父に相談。「何か柔らかいものと接着した建材を作ったら」と示唆されて、直ちに開発に着手、約一年かけてエコ・ロックを開発した。発売した九五年には二五〇〇万円しか売れなかったが、その後急に伸びはじめ、七年後の〇二年には四億円を突破し、まさに「起死回生のヒット商品」となった。

 この成功で、同社は下請けからベンチャー企業に脱皮。九八年には熊本県工業技術センターと共同して「電磁波シールドゴム」を開発。高分子材料のゴムに加硫剤や特殊配合剤などを混合して、金属を全く使わないのに、電磁波の遮へい力をアルミ板や銅板並みへ高めた。

 続いて昨秋、水を吸収して止水効果を高める水膨張ゴムを独自に開発し、道路やマンホールからの泥水流入を防ぐ「ケーブル敷設兼用止水栓」も発売。光ファイバーケーブルに対応しているため、NTTグループなど通信事業者向けに販売している。こうした製品の拡大で、同社はIT(情報技術)関連市場はもとより、ガス・交通といったインフラ市場にも本格的に進出し始めている。

 倉田社長の経営方針は特許の重視。エコ・ロックで初めて特許を取得したのを皮切りに、九五年以降は毎年数多くの特許を出願。電磁波シールドゴムでは、欧米五カ国にも出願し、海外市場への展開をめざしている。

 今秋には東京営業所も設立し、環境意識の高い、首都圏の企業向けにエコ・ロックの販売を拡大。この製品の売り上げを、一気に一〇億円の大台に乗せる計画だ。

 「これからの中小企業が生き残るには、下請けを脱して、オリジナルな製品を開発するしかない」という倉田社長の目標は、今や着々と実りつつある。


“世界の開発センター”をめざす…京都試作ネット(2004.06)

 膨大な労働力と技術導入で“世界の工場化”する中国、卓抜した語学力とIT活用で“世界の事務センター化”するインド。二つの新興工業国に挟まれて、二一世紀の日本、とりわけ中小企業はどこをめざすのか。一つの回答は新製品の“世界の開発センター”になることだが、その一翼を担う動きがすでに中小企業グループで始まっている。

 京都府南部の機械金属企業が、二〇〇一年に“試作加工のプロ集団”をめざして結成した「京都試作ネット」がそれ。試作品とは、家電メーカーなどが新製品の量産に入る前に必ず作るサンプル品。その際、必要な部品や部材を、複数の試作加工業者に個別に発注する。同ネットはこれを一括受注し、専門毎に分担して、最適の加工体制を作ろうというもの。メンバーは薄板金属加工の最上インクス、金属表面処理のキョークロ、アルミ精密加工の山本精工、大物金属加工の川並鉄工、刃物焼き入れ加工の衣川製作所など一〇社。

 最大の特徴はインターネットのフル活用。Eメールで問い合わせや注文が入ると、メンバー全員の携帯電話へ転送し、二時間以内に発注者へ返信する。成約すれば、案件に最適な企業が元請けとなって、受託作業を迅速に進める。メンバーには「発注先との秘密を守る」「ネットの注文は自社の仕事より優先する」など、厳しい約束がある。

 こうしたスピーディーな運営と高い技術水準が評価されて、三年間で約七〇〇件を超える問い合わせがあり、一二三件が成約した。主な発注先は家電、電子機器、制御機器など大手メーカーだが、大学や公的研究機関から実験装置や治具などの開発依頼もある。契約額は数万円から一千万円超までさまざま。

 グループの代表、㈱最上(さいじょう)インクスの鈴木三朗氏は、三六歳で同社の社長となり、少量多品種生産、試作中心の企業に育ててきた。ところが、九〇年ころから内外環境の激変で、従来の経営手法が通じなくなった。京都機械金属中小企業青年連絡会で、同業各社と意見交換を重ねた結果、一社単独での新規受注は難しいが、得意技術を持った複数企業が連携すれば、大手メーカーからも大きな受注が可能になることに気づき、〇一年七月に同ネットをスタートさせた。

 「試作だけでは本製品の注文が来ない」との意見もあったが、「試作段階から発注企業に関われば、量産品の受注も取れるはず」と説得し、結成にこぎつけた。東アジアの工業化で、量産品の生産は海外に出で行くが、国内での試作はなくならない、という強い自信があったからだ。

 グループの受託が増えるにつれ、メンバーの仕事内容も変わってきた。従来は設計に従ったモノ作りが中心だったが、最近では開発段階での提案や設計も求められるようになり、加工以外の技術が確実に向上してきた。この波に乗って、鈴木代表は「京都を試作産業の一大集積地に!」と未来の夢を描いている。


クリーンエネルギーの教材用工作キットを開発…西野田電工(2004.05)

 クリーンエネルギーの燃料電池を搭載した乗用車が、大手自動車メーカーから相次いで発売されている。素人には複雑な発電のしくみを、やさしく学べるようにした教材用工作キットが発売され、注目を集めている。

 このキット「水空(みずから)電気」には、水から水素を発生させる「水電解セル」と、その水素を空気中の酸素と反応させる「燃料電池セル」の二つがセットされており、約一・五ボルトの発電が可能だ。電池の心臓部にあたる「セル」を、ユーザーが自分で組み立てていくうちに、発電の構造やしくみが自然に理解できるという優れもの。

 組み立て方をビジュアルな動画で紹介するCDが添付されており、高校生なら容易に製作できる。家庭用アイロンを使って、イオン交換膜に多孔質炭素電極膜をはりつけるなど、独自のアイデアも盛り込まれている。

 「みずから」というネーミングは、「水から(みずから)電気が起こる、水と空気(みずから)で電気が起こる、自ら(みずから)の手で電気を造る」の、三つの「みずから」に因んだ。価格は二万五〇〇〇円で、一月からインターネットで発売している。

 キットを開発した西野田電工(大阪市、菅留視子社長)は、一九四五年に創業した電気工事会社の老舗だが、事業のマンネリ化を防ぐため、二〇〇〇年に「Q(キュアリアス=好奇心)事業部」を新設し、ベンチャー的な事業にもチャレンジしてきた。

 〇二年に、花の色素で電気を起こす「色素増感型太陽電池」の工作キット「花力発電」シリーズを、ローザンヌ大学や大阪大学の協力を得て、世界で初めて開発。このキット一つで、ナノテクノロジー、イオン交換膜、色素増感半導体、光電気化学など、環境関連の最新技術が一通り学習できるため、インターネットで発売したところ、電機メーカーや公的研究機関から注文が相次いだ。そのうえ、資源エネルギー庁からエネルギー教育推進事業の教育用教材キットとしても認定され、全国の希望高校に無料配布された。

 そこで第二弾として開発したのが「水空電気」シリーズ。独立行政法人・産業技術総合研究所・関西センターの小型燃料電池グループと共同開発し、本格的な発電機セットとなった。今回も主な販売目標は学校だが、新たに企業向けの「固体高分子型水分解及び燃料電池セミナー」を各地で開催し、ビジネスマンの関心を高める戦略も展開している。

 このセミナーでは、一五〇分の間に「水空電気」を実際に組み立てて説明する。中小企業に燃料電池のしくみを幅広く浸透させ、新たなビジネスチャンスを見つけてもらうのが狙いだ。費用はキット込み一二万円。

 「大学や研究機関には、新商品のシーズがいっぱい埋まっています。今後も産学協同をうまく進めて、社会が求める、新たな商品を次々に世に送り出していきます」と、菅社長は意欲を見せている。


豊かなシニアライフをタイで実現…リエイ(2004.04)

 三月一七日、東京都品川区のタイ大使館で、日タイロングステイ推進協会の発起人会が開催された。

 日本人旅行者の長期滞在を広げようと、発起人には駐日タイ大使をはじめ、日タイ両国の医師や有識者らが参加した。ここまでこぎつけられたのは、かねて同国でシニア・ロングステイ事業を推進してきた㈱リエイ(千葉県浦安市)の社長、椛澤(かばさわ)一さんの尽力である。

 同社は二〇〇二年に㈱リエイ・インターナショナルを設立して、シニア向けのロングステイ事業を開始し、昨秋にはバンコクに二〇戸のホテルアパートメントを建設した。この事業は、日本人の高齢者に豊かなシニアライフを提供するため、アジア地域での長期滞在を斡旋しようとするものだ。

 具体的には、①定期的な情報の発信やビザ取得などを手伝う「リエイ・ロングステイヤーズ・クラブ」の運営、②ロングステイの体験旅行や関連手続きの斡旋、③自社のアパートホテルや適切な滞在施設の紹介などを行っている。ちなみにバンコクへの体験旅行は、航空券別で五日間なら二九、五〇〇円、三〇日間なら九五、〇〇〇円と格安だ。

 飲食店を経営していた椛澤社長は、出入りの人脈を活かして、七〇年代後半から道路舗装業者の作業宿舎向けに給食や清掃の受託サービスを開始。これが当たって、八〇年には、企業の福利厚生施設の管理・運営を代行する同社を設立。現在、全国に二七〇カ所の受託事業所を担当する、業界トップとなった。

 だが、長期不況のあおりで企業の福利厚生事業が縮小されはじめたため、二〇〇〇年から介護事業にも参入。施設運営のノウハウを活して、ケア付き高齢者向け賃貸ホームを開業した。今年四月には、八番目の有料老人ホームとして「シニア町内会まくはり館」をオープン。入居者が町内会を作って、町会長や班長を順番に勤めるというユニークなシステムで、シニア層に“自立心”と“懐かしさ”の共存を呼びかけている。

 続いて〇二年に開始したのが、シニア・ロングステイ事業。単なる旅行斡旋を超えて、医療や介護までも含む、総合的なサービスを目標に掲げ、タイ人のケアワーカーの養成もはじめている。もっとも、これには日本の介護サービス需要の急増を見越し、アジア地域で良質な労働力を先行的に確保しようという深慮もある。早晩、日本でも外国人のケアワーカーが認可される可能性が高い、と予想しているからだ。まさに先見的な経営だが、この積極的な姿勢が評価されて、今年の二月、椛澤社長は千葉県から第八回ベンチャー企業経営者として表彰された。

 同社では二〇〇七年までに、タイの自社ホテルを二〇〇戸程度まで増やす計画だ。「高齢化の進む日本でのシニア・ビジネスを、アジアというネットワークの中に位置づけて、広域的に展開していきますよ」と、椛澤社長は壮大な構想を描いている。


太陽光発電の防犯灯を開発した…キシムラインダストリー(2004.03)

 多発する犯罪を防止するため、学校、公園、商店街などに監視カメラ付き防犯灯を設置する動きが広まっている折、低コストの“スーパー防犯灯”が注目を集めている。

 この防犯灯「スターライツ」は、光源に太陽光モジュール発電システム、照明灯にLED(超高輝度発光ダイオード)と、最先端のハイテクを応用して「約一〇年間のメンテナンスフリー」を可能にした。一二〇個のLEDにより、地上一・八メートルで一五〇ルクスを実現、人間の顔が見わけられる。七万時間と長寿命のうえ、消費電力も蛍光灯の三分の一以下、さらに夜光性の虫もよりつかない。全体の高さは四・六メートル、照明灯高は三・四五メートル、四五〇ミリ角のベース部には制御装置と蓄電池を収納している。

 価格は本体が一五〇万円。付設する監視カメラは、赤外線通信、PHS回線、インターネットの通信方式によって、三〇~一二〇万円の三タイプから選ぶ。従来の蛍光灯を使った監視カメラ付き防犯灯は三〇〇万円を超えているから、一~三割安くなる。

 スターライツを開発・販売したのは、太陽光発電エネルギーシステムの設計・製造・販売を手がける、横浜市のキシムラインダストリー(社長・岸村俊二氏)。岸村社長は一九八七年にエンジニアリング会社から独立し、九〇年に同社を設立。当初はCATVや衛星放送設備の施工を請け負っていたが、九三年から太陽光発電の設計・デザインに参入した。

 九六年に「セキスイハイム」へ太陽光発電システムを標準搭載させるプロジェクトに参加したことを契機に、翌年から産業用太陽光発電システムやコンサルタント業務も開始した。九八年には太陽電池を使った環境オブジェ「ソーラーパワーツリー」を、初めて神奈川県に納入。現在、横浜市山下町の神奈川ドームシアター広場で稼働している。

 同社が注目されているのは、機能一点張りだったエネルギー機器に、デザインやアートという美的感性を導入したこと。カメラ、油絵、インダストリアルデザインなどで、玄人はだしの趣味人だった岸村社長が、その感性を徹底的にビジネスに応用したものだ。

 そのうえ同社では、東海大学と共同して「太陽光発電と水素エネルギー利用」の基礎研究に取り組んだり、テレビ神奈川(TVK)の「TVKエコライフシステム」にも資本参加して、ソーラー、風力など新エネルギーシステムの普及・啓発にも力を注いでいる。

 こうした活動の延長線上で生まれたスーパー防犯灯は、同社初の規格型製品。すでに新宿駅西口広場や国土交通省にも納入しているが、今後はさらに各地の公共施設の防犯設備用に、年間一〇〇〇本以上を売上げ、二年後には年商七億円を達成する計画だ。岸村社長は「新エネルギーや環境対策の分野に、芸術性を組み合わせることで、ユニークなオンリーワン企業をめざします」と、将来の夢を語っている。


下請から自社ブランド企業に脱皮する…ドゥ・ワン・ソーイング(2004.02)

 縫製産業ではアパレルメーカーやデパートなどの下請企業が多く、近年は消費不振や輸入品急増による価格破壊、あるいは多品種少量生産に伴う生産効率の低下などで、大半が経営危機に陥っている。こうした状況を打開するため、老舗の一企業が始めた「パターンメイドのワイシャツ」という、新たなビジネスモデルが注目されている。

 このモデルは、色や柄などの素材、襟や袖などのデザインといった、さまざまなサンプルを予め小売店に提供し、ユーザーが自由に組み合わせて「自分の欲しいワイシャツ」を注文すると、二週間で納入するというもの。価格はメンズが七九〇〇円から、レディスは九八〇〇円からと既製品よりかなり高いが、デパートなどで買えば二万円以上の商品だ。

 販売先は、全国主要都市の上代七万円以上のオーダースーツを扱う店。ターゲットとなるユーザー層は、メンズでは二〇~四〇代のビジネスマンで、セレクトショップなどの顧客層。レディースはスーツ着用の機会の多い、二〇~三〇代のキャリア組で、既成品に飽き足らない層。開始して僅か一年で、取引先はすでに三〇〇店舗を超えている。

 ビジネスモデルを開発したのは、大阪市の縫製メーカー、㈱ドゥ・ワン・ソーイング(土井重城社長)。一九七九年創立の同社は、売上高は約五億円、従業員は約五〇人と小規模ながら、有名ブランドの縫製を数多く手がけ、ドレスシャツ分野では高い評価を得ている。だが、この十年間は「自社で価格が設定できない」「下請け企業には優秀な技術者が集まらない」などで苦渋してきた。

 これを打開するには自社ブランドに進出するしかないと、三年前から新たなビジネスモデルの構築に取り組み、まず受注から納品までを一元的に管理する「受発注管理システム」を構築した。受注用キットを販売先に配布し、FAXやITで注文を受け、翌日受付シートを返信して確認し合い、受注から二週間後には販売先へ納品するというものだ。

 具体化にあたって、専任の受注担当者を二名、生産ラインの縫製担当者を六名、新たに採用して生産体制を強化した。また昨年は経済産業省の中小繊維製造事業者自立事業に応募して、約三〇〇〇万円の助成金を獲得、システムの改良や販促の費用に充てた。

 その結果、販売先への材料在庫の発信や販売データの分析が容易になり、流通在庫や生産ロスが軽減されて、高品位の製品を適正価格で販売できるようになった。また発注者が「顧客」から「個客」に変わったため、最終的な個別ニーズの把握も可能になった。

 そこで、同社ではこのモデルを拡大し、五年後には下請メーカーから脱皮する計画だ。同時に「自分にフィットしたシャツを着たい」「カラーやデザインでおしゃれを楽しみたい」という、高感度なユーザーを掘り起こし、「日本のサラリーマンをもっとおしゃれにしよう」と、大きな目標も掲げている。


現代版「ノアの方舟」を開発した…キミドリ建築(2004.01)

 一一月の初め、岐阜県山県市の空き地で、巨大なサッカーボールをプールの中に浮かべる実験があった。多くの観客が見守る中、クレーンがゆっくりと離したボールは、見事に水上に浮かんだ。実をいうと、このサッカーボールは水上住宅。何人かの人が入っても、ほとんど揺れないという優れモノだ。

 水上住宅は直径約六メートルの二階建て、延べ床面積約三〇平方メートルで重さは約六トン。二階リビングのドアから、はしごを使って出入りする。二階は一五畳ほどで寝室や倉庫、一階は一〇畳ほどの収納スペースで、約一カ月分の水や食料が保管できる。大人二十人が入ることができ、オプションで台所や風呂を設置することも可能。

 軽量鉄骨を使ったパネル工法で、外壁は一辺が一・一三メートルの正五角形一二枚と正六角形二〇枚のパネル計三二枚を組み合わせてボルトで接続し、グラス繊維と樹脂で全面に防水加工を施している。水に浮かべた場合は、住宅の下部約六分の一が水面下になるように、床下に約一トンの砂袋を入れて重しとし、ロープとスタンドで岸辺に固定する。圧力に極めて強いため、地中に埋めて使用することもできる。現在、国際特許を出願中だ。

 これらの特性から、地震や水害時の災害非難用に一番適しており、「身を守る」という意味をこめて「バリア」とネーミングされた。いわば、現代版の「ノアの箱舟」である。

 この商品を開発したのは、同市の建築業「キミドリ建築」(恩田久義代表)。恩田代表は、幼い時から大工が好きで、一五歳で建築会社に弟子入りし、二五歳で独立。現在、七人の従業員とともに、木造の一般住宅などを年間約一〇棟建てている。

 だが、昨今の建築不況の中、大手住宅メーカーと競争していくには、従来の固定観念を破った、斬新な住宅を販売することが必要と痛感。これまでにも移動式の「グレートハウス」、核家族に向けた低価格の立方体住宅「キュービー」など、近未来型の住宅を次々に開発してきた。また地域のユーザーを掘り起こすため、毎週土、日にはフリーマーケットを主催したり、初心者から専門職までを養成する大工教室も併設するなど、小規模建築業者から抜け出す試みも展開している。

 その延長線上で新たに思いついたのが「水害や災害に強い新しいタイプの家」。岐阜大学産官学融合センターの協力を得て、浮力や水圧などを何度も計算し直して、試作品を完成させた。この試作品をベースに、直径約四メートル、六メートル、八メートルの三タイプの商品を売り出す計画だ。発売価格も、若い人にも購入してもらえるように六〇〇万円から一千万円を予定している。

 「災害時の非難用は勿論、子ども用の離れ、水辺のリゾート地やキャンプ場のコテージ、さらにはサッカーファンが集まる多目的空間などにも利用してもらいたい」と、恩田代表は商品化に意欲をみせている。


事例研究
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