起業動向事例研究2002
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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY

夜空に光る凧の開発で注目を集める──森久エンジニアリング(2002.12)

この夏、夜の海辺や河原でキラキラ光る凧が人目を引いた。新しい凧「バイオカイト」の「特殊蓄光シール付きモデル」だ。

バイオカイトには八〇センチほどの蝶の形をした二タイプがある。ユーザーは好みのキットを購入して自ら組み立て、星型や半円型の蓄光シールを張る。青、緑、赤、黄の四色のシールに車のヘッドライトを一分ほど当てると、五〇メートル先から見えるほど鮮やかに輝く。価格は四五〇〇~五五〇〇円。

この商品を発売したのは、兵庫県伊丹市の新機材開発ベンチャー、㈱森久エンジニアリング(森一生社長)。三菱電機㈱先端技術総合研究所の元所長・伊藤利朗氏が開発した技術を、同社が製品化した。伊藤氏は二〇年前から凧の原理を科学的に研究し、航空理論を組み入れれば、微風でも飛ぶことを発見。凧の前後にかすかな角度をつけて、前部に主翼、後部に水平尾翼の機能を持たせ、上がる力と落ちる力のバランスをとるように設計した。

アイデアを提供された同社では、特殊紙、カーボン、繊維強化プラスチック、発泡スチロールなどで素材を徹底的に軽量化し、骨の数も最少にした結果、秒速一メートルの風で舞い上がり、数百メートルの高さを何時間も飛び続ける凧を作り上げた。従来の凧では同三メートルでも、助走が必要である。

この商品を鳥や蝶など六種類の工作キットにして、昨年一二月から同社のホームページで発売したところ、注文が殺到した。またバイオカイトには、空気力学、制御理論、材料力学、構造力学など理工系大学なみの知識が積み込まれているため、理科の教材としても最適だ。すでに「総合学習の教材に使いたい」という要望もきているという。

同社は一九八七年に設立された新機材の設計・試作ベンチャー。これまで野菜生産システム、各種洗浄機、各種実験装置などを開発してきた。多様なようだが、野菜生産システムは農業用温室、洗浄機は洗濯機、バイオカイトは凧と、古くから親しまれてきた道具を先端科学で作りなおすことが得意だ。

野菜生産システムも、三菱電機㈱から基本技術を供与されて開発したが、従来の水耕栽培をベースに、蛍光灯の反射光を有効に活用して、苗の成育速度を最大八倍にまで伸ばした。太陽光の日照条件に左右されずに、省エネかつ省スペースで、高効率・高速の野菜栽培を実現する、という優れものだ。

バイオカイトの開発を機に、昨年、現在の社名に変更。この秋には翼をもった恐竜タイプのカイトを発売した。またショーウインドーの装飾用として、風量や照明などの制御で、チョウや鳥が音楽に合わせて舞い踊るシステムも開発している。

森社長は「大企業の保有する特許の中には、市場規模が小さくて日の目をみないものが多いが、小回りの利く中小企業なら十分製品化できる」と、新たなシーズの発見に力を注いでいる。


ヘッドホン型の格安補聴器を開発した──伊吹電子(2002.11)

  長寿化の進行で補聴器の需要が急増している折、ヘッドホン型の音声拡張器が新しい機能と斬新なデザインでヒットしている。

この商品「ボイスカムバック」は、集めた音を内蔵回路で四〇デシベルにクリアに増幅する。耳にかけると自動的に電源が入り、外すと切れるから、聞きたい時だけ補聴器として使える。単五電池二本で連続二〇〇時間の使用が可能。

六四グラムと軽く、首の後ろから耳にかけるネックバンド方式のため、女性でも髪が乱れないし、両手も自由に使える。若者風のデザインだから、そのまま外出しても不自然でなく、従来の補聴器には抵抗があった高齢層でもカッコよくつけられる。

最大の利点は一万四八〇〇円と価格が安いこと。オーダーで作る医療用の補聴器に比べて、約三〇分の一の安さだ。今春、NECリビングサービスや全国の東急ハンズなどで発売したところ、数々の利点が受けてたちまち約七〇〇〇個を売った。

「ボイスカムバック」を開発したのは、電子部品や計測器用プリント基板が本業の㈱伊吹電子(川崎市高津区、松田正雄社長)。松田社長は数年前、郷里の母親に高価な補聴器をプレゼントしたが、「雑音が入ってうるさい」と使ってもらえなった。そこで、段ボールにマイクとスピーカーをつけただけの音声拡聴器を自作して試してもらうと、これが大変好評だった。気をよくして何個か作り、親類や知人に配っていたところ、社員たちから「商品にすべきだ」との意見が出た。

それなら、と本業のノウハウを活かして商品化に挑戦。約二年かけて携帯電話タイプの音声拡張器「クリアーボイス」を開発した。携帯電話と同様あちこちに持ち歩き、必要に応じてスウィッチを入れ、耳にあてがうと拡大された音量で話が聴ける。

この商品を九九年三月、九八〇〇円で発売したところ、売上げは順調に伸びた。二年間で約二万台に達し、IT不況による業績悪化をカバーしてくれるまでになった。ただ残念なことに、発売前年、母親が亡くなっていたため、新製品を使ってもらうという、所期の目的は果たせなかった。

その後、購入者のアンケートが集まってくると、「医者の問診が聞き取れない」「テレビの音量を上げすぎる」「会話が大声になる」など、高齢者の間では難聴の悩みが多様化していること気づいた。そこで、同社では「クリアーボイス」の改良をめざして、川崎市から「モノづくり活性化事業」の補助金を受け、より使いやすい商品を開発した。これが「ボイスカムバック」だった。

 現在、同社では、川崎市の「福祉産業研究会」に参加し、斬新なデザインの福祉器具や、喉頭癌患者や視聴覚障害者のための補助機器の開発にも取り組んでいる。「IT部品企業から電子福祉産業へ」と、松田社長の目は時代の行方をはっきりとつかんでいる。


新方式の音声認識装置で飛躍する──日進エレクトロニクス(2002.10)

ピッキング犯罪が増えている折、玄関でICカードをかざしパスワードを唱えると、パッとドアが開く商品が売り出された。

「ALIBABA  KEEPER(アリババ・キーパー)」という装置で、ICカードにあらかじめ入居者の声を音声パスワードとして登録しておき、玄関の認識装置で本人確認を行って、電気錠を開錠する仕組み。音声の認識率は九七%。認識方式にはセキュリティーの度合いで、①ICカードだけで確認、②ICカードをかざしてテンキーで暗証番号を入力、③ICカードと音声による認証、の三種類があり、ユーザーが自由に設定できる。

但し、子どもや老人の締め出しを防ぐため、オートロックではなく施錠にも同じ手順を使う。専用ソフトを使えば、パソコンで入退室の管理も可能だ。この装置は、音声認証装置、非接触ICカード、電気錠と管理者用のパソコン、ICカード発行機などで構成されており、価格は認証装置が三九万五〇〇〇円、管理者や代理店などに設置するICカード発行機四〇万円、入退室管理ソフト二五万円、専用通信レベル変換器二万一〇〇〇円、ICカード一枚三五〇〇円。

「アリババ・キーパー」を開発したのは、名古屋市の電子機器開発ベンチャー、日進エレクトロニクス㈱(福田義久社長)。外航船の無線通信士だった福田社長は、一九八七年に電気工事会社の下請け企業を設立。が、不況の進行で下請けの未来は暗いと判断し、独自製品の開発に取り組むようになった。

電子機器開発メーカーに勤めていた実弟やその部下のエンジニアも巻き込んで、開発目標を検討するうち、ピッキング被害が多発する世情を見て、ICカードを併用した鍵システムに着目。指紋や網膜の特徴を読み取る装置は、すでに大手メーカーが進出しているため、音声認識装置に的を絞った。

幸いにもこの企画が、愛知県のベンチャー支援事業の第一号に認定され、九六年に一億六〇〇〇万円の開発資金を獲得。本格的な開発に取り組んで、九七年に認識装置の原型を完成させた。だが、三〇センチを越す立方体で、ドアには大きすぎるし、声の認識率も八〇%と低い。欠点を改良するため、さらに二年近くかけて、ようやく弁当箱大に縮小、認識率も九七%にまで高めることに成功した。

二〇〇〇年四月、この装置を名古屋市役所のコンピュータールームに初めて納入。〇一年四月には、同市内の賃貸マンション用に一〇戸を販売した。ドアに鍵穴のない、住宅用の音声認証システムは「世界で初めて」という。昨年からはNTT-TEグループと総代理店契約を結んで企業向けの販売を拡大しているが、近々、個人住宅や事務所向けとしても売り出す予定だ。

「誰もやっていないことに挑戦すべく、今後も新たな商品開発をめざします」と、福田社長は目を輝かせている。


新理論のスピーカーで音響市場を革新──タイムドメイン(2002.09)

   内蔵の専用アンプで高性能の音質を実現する小型スピーカーが、オーディオマニアの間で大好評だ。幅一〇六ミリ×厚さ一六二ミリ×高さ一八五ミリで、左六〇〇グラム、右六八〇グラムと小型・軽量のうえ、音響機器やパソコンのヘッドフォン端子にさしこむだけという簡便さ。価格は一万八〇〇〇円。

この商品「TIMEDOMAIN・mini」を開発したのは、奈良県生駒市の音響機器ベンチャー、㈱タイムドメイン(由井啓之社長)。昨年五月の発売以来、口コミやインターネット通販だけで、すでに約三〇〇〇セットを売り上げた。

大手音響メーカーのエンジニアだった由井社長は、肝臓病で入院した時、音楽が多くの患者を癒すのを実感。退院後は「いい音」の創造をめざして超低音スピーカーを開発し、全国のオーディオ専門店から一応の評価を得た。だが、八〇年暮れの欧州視察でパリ、ミラノ、ウィーンなどを訪問した折、大劇場の本物の“音”の素晴らしさに圧倒された。帰国後はその音を再現しようと研究開発に没頭。約三年かけて「タイムドメイン(時間領域)理論」に到達した。

従来の機器では、音を周波数の集まりと考えて各波動の再現をめざすが、それらが集まった音は元とは微妙に異なる。そこで、音になる前の空気の振動から最後の響きまでを、一つの「時間領域」として丸ごと再生する方法を編み出して、八四年に新型スピーカー「GS―1」を製品化し、日本のオーディオ三大賞を独占した。

六〇歳の定年後も嘱託で研究所長を務めていたが、研究所の閉鎖で九六年からは某ベンチャー企業に移りオーディオ・ラボ部門を組織した。が、そこもまた経営者が変ったため、九七年五月、スタッフ六人で㈱タイムドメインを設立。開業後二年間に一〇〇を超える試作品を作ったものの、製品化のめどがたたず、資金難に苦しんだ。

二〇〇〇年にようやく筒状のスピーカーというアイデアを得て、新型スピーカー「Yoshii9」を発売。一セット二〇〇万円の「GS―1」に対し三〇万円と格安のため、口コミだけで約八〇〇台を売り、経営も軌道に乗った。購入者の七割がオーディオ機器の素人層で、うち三割が女性客だった。パリのオーディオショーにも出展したところ、「ぜひ扱いたい」というエージェントが多かったため、今春から欧州への輸出にも踏み切った。軌道に乗れば、米国にも進出する計画だ。

同社の経営は、技術開発以外は全てアウトソーシング。販売網も一〇の代理店以外は、オーディオマニアや音楽家の口コミと、インターネット直販が中心というユニークさ。

 好評の「mini」は、オリジナル商品の第二弾だが、今後も「リスナーを感動させる音を広めるため、あらゆるジャンルにタイムドメイン方式を普及させます」と、由井社長は将来の夢を語っている。


育児支援のアイデア商品を創造する──アクションケイ(2002.08)

少子化の進行で育児支援が急務になっている折、洗面台や台所の流し台を、赤ちゃん用の沐浴(もくよく)バスに変えてしまうアイデア商品が話題になっている。

「もっくよっく」という、この商品は、ポリウレタン製のシートを洗面台などに広げて吸盤で固定し、ベビーバスに変身させる。折りたたむと葉書二枚分だから、外出や旅行にも持参できる。使用後のお湯はそのままシンクに流せるし、立ったまま洗えるので母親に負担がかからない。洗面所用と台所用の二種類があり、価格は三六〇〇円と四八〇〇円。

ユニークな商品特性が関西ニュービジネス協議会に認められ、二〇〇〇年度の関西NBK大賞でヒューマン商品開発部門賞を受賞。これまでに約一万枚を売っている。

「もっくよっく」を開発したのは京都市のベンチャー企業、㈲アクションケイ(阪部智子社長)。阪部社長はもともと工業炉メーカーの営業職だったが、成績をあげてもなかなか認められず、子育て後の再就職も困難など、男社会の矛盾を強く感じて退社。アルバイト先で、たまたま「介護計画ソフト」を研究している助産婦グループと知り合った。

このグループの支援を得て、九八年の夏、女性の暮らしを側面からサポートする新会社を設立。同年一二月には、妊産婦向けに「安産のための体重自己管理ソフト」(一〇〇〇円)をまず開発し、インターネットなどで販売を開始した。

さらにグループのメンバーから「新生児の入浴では洗面台を使う人が多い」という、意外な事実を聞いた。最初は誰もが専用のベビーバスが使うが、バケツで湯をくんだり、温度を調整をしたり、腰をかがめて洗うなど、出産直後のお母さんにはかなり重労働。そこで、立ったまま洗えるし、お湯の出し入れも簡単な洗面台を利用する人が増えてくる。

もっとも、洗面台は雑菌が多くて大変不潔だ。それなら「水泳用のゴム帽を広げてシートにすれば…」と思いついた阪部社長は、いろいろと試した結果、某繊維メーカーのポリウレタン素材に行き着いた。天然ゴムよりずっと丈夫で、試用者にも好評だった。

九八年の暮れに発売したが、デパートへの納入を断られたり、通販会社が倒産したりで、セールスが得意だった社長も、かなり苦労した。が、今では東急ハンズをはじめ、ベビー用品店や大手玩具チェーンなどにも販路を広げ、着実に売り上げを伸ばしている。

この成功をきっかけに、同社では思春期から更年期まで女性の全人生をサポートする、という目標に向けて、インターネットを使った「妊婦のためのマルチメディアサポートシステム」や、女性のための会員制ホームページ「エルクラブ」も開始した。

次の開発目標はおしゃれな介護用品。「介護される人の気分や感性を尊重した商品をめざして、いろいろ知恵を絞っているんです」と、阿部社長は目を輝かせている。


カップめん容器リサイクル処理機を新発売──エコフレンド(2002.07)

 容器包装リサイクル法の施行で、カップめん容器専用のデポジット(払戻金)システムが、学校やコンビニで注目されている。

今春、発売された「カップめん容器自動圧縮選別処理機」は、カップめんの自販機に併設し、直径二三センチまでの容器に対応したもの。容器に印刷されたバーコードを読みとり、隣の自販機で売ったデポジット対応かどうかを判断したうえで、一〇円を払い戻すシステム。回収した容器は十分の一に圧縮する。スープなどの残液も回収できるし、オプションのディスポーザーをつければ、生ゴミも分解・収納できる。価格は一四〇万円。

デポジット対応システムは、ジュースの缶や瓶用ではすでに発売されているが、カップめん容器用は初めて。食品メーカーなどにも積極的に売り込んで、初年度は約一億円の売り上げを見込んでいる。

この装置を開発したのは奈良市の環境関連機器開発ベンチャー、㈱エコフレンド(筒井等社長)。大手文具企業の役員だった筒井社長は、環境事業の拡大を見越して退職、一九九五年秋に同社を設立した。直ちに環境先進国ドイツへ飛んで、環境関連機器メーカー各社と技術提携を進め、大型リサイクル処理機、小型飲料容器回収処理機、エコシュレッダーなどを次々に開発・発売してきた。

さらに本格的なシステムをめざして試行錯誤を重ねた結果、九八年の夏にペットボトル、アルミ缶、紙コップなど六種を自動選別・回収し、デポジットに対応する「飲料容器自動選別回収装置」を開発した。レーザー光線でバーコードから容器の種類やメーカー名などを識別し、素材や大きさに分けて内蔵タンクに蓄積したうえ、一〇円を自動的に払い戻すという、画期的な製品。二〇〇一年には大手保険会社から大量受注を受けたほか、すでに全国各地の高校・大学、商店街などへ多数納入している。

今年の二月からは中国への輸出も開始。香港政庁と契約して初年度には二〇〇台の販売を見込む。二〇〇八年の北京五輪開催に向けて、環境意識が高まっている折、北京、上海、大連などの大都市部でも、新しい市場を開拓する計画だ。

国内でも環境に関する国際規格「ISO14000シリーズ」の取得をめざして、社内環境を改善する企業が増えているため、関連機器の拡販に努めているが、大規模な広告・宣伝をする予算はないから、納入先の口コミで着実に売り上げを伸ばしていく方針だ。

次の開発目標についても、「品質・性能面や価格で大手企業に負けないものを作らない限り、ベンチャーの存在意義はない」と、ユニークな商品作りに取り組んでいる。

現在、日本列島には三〇〇万台以上の飲み物やカップめんの自動販売機がある。「その横に必ずわが社の処理機を設置できれば、飛躍的な成長も可能です」と、筒井社長は二〇〇八年の株式公開をめざしている。


消臭・消音の介護用携帯トイレを開発──ジーバ(2002.06)

 高齢者の介護用に、特殊な泡で消臭・消音効果を高めた携帯トイレ「あわゆき」が注目を集めている。便槽に充満させた泡剤で便臭を遮断して外部に漏らさないうえ、排尿音も低くするという、すぐれもの。家具調とアルミタイプの二種があり、価格は五万八〇〇〇円。泡剤は二・五カ月分が一二〇〇円。

夜中に何度かトイレに行ったり、排尿音を気兼ねする高齢者には大変好評だ。介護者にとっても一~二日に一回、便槽を取り出してトイレに流すだけですむし、洗浄水も年間約五〇トン分減らせる。こうした利点が受けて、半年間で約三〇〇台を売った。

開発したのは介護機器開発ベンチャー、㈱ジーバ(佐賀県武雄市、北川安洋社長)。北川社長はルアー(疑似餌)の大手、㈱デュエルの創業者だが、持論の「六十歳定年」で九三年に社長の座を女婿に譲った。だが、一〇年も続けてきた異業種交流会のメンバーたちが、定年退職や引退で寂しがっているのを見て、「高齢者による高齢者のための企業」を企画。六〇歳以上の経営者ら二三人から出資を募り、九七年に㈱ジーバを設立した。ジーバとは「じいちゃん、ばあちゃん」の略だ。

社員も六〇歳以上の五人。家具店や鉄工所の経験者、元家電メーカーの工場長、流通の専門家と多彩。ほとんどが家族を介護した経験があり、使う人、介護する人の身になって、介護機器の研究・開発に取り組んだ。

約二年の開発期間をかけ、九九年に介護用リフト「てがる」を発売。電動モーターで寝たきりのお年寄りをつり上げて、おむつの取り換えや寝返り、簡易浴槽への移動などを容易にし、二~三人分の作業が一人ですむ。類似商品では五〇〇万円以上もする価格を、普通の顧客でも買えるようにと四八万円に抑えた。介護保険制度を利用したレンタルだと、利用者負担は月二五〇〇円。この性能と価格で発売以来約五〇〇台を出荷した。

二番目に開発したのは「ソファ型車いす」。一人用ソファの脚の部分に、五個のキャスターを円形に配置し、本革シートとリクライニング機能で利用者のリラックス度を高めた。小回りが利くから介護者も扱いやすい。価格は七万八〇〇〇円。昨秋、大手通販雑誌『通販生活』で紹介されたところ、全国から一二〇台の注文が殺到した。

三番目の「あわゆき」に続いて、現在は寝たまま運動できるリハビリ機器、障害の程度に応じて座り方が変えられるイス、家庭用エレベーターの一割の価格で二階に上がれる階段など、ユニークな商品開発に取り組んでいる。高齢化の進む二一世紀には、高齢者や介護者の悩みや問題は広がる一方だから、商品開発の対象は無限だ、という。

今もなお武雄商工会議所会頭や佐賀県異業種交流会会長を務める北川社長は「今後は販売方法を工夫して、より多くの商品を市場に送りだし、三年後には株式も公開します」と、ジーバの将来を語っている。


注文カーテンの内覧会同行サービスで急伸──カーテン・ココ(2002.05)

  都心回帰の波にのって高層マンションが続々新築されているが、窓枠のサイズが大型化・多様化したため、カーテンをオーダーする購入者が増えている。このニーズにいち早く対応して、事前の内覧会に専門業者を同行させ、直接ユーザーの注文を受ける出張サービスが、業界の注目を集めている。全国的にこのサービスを展開しているのは、船橋市のオーダーカーテン専門店「カーテン・ココ」。

 同社のホームページ(http:/www.ccoco-web.com/)に連絡先、希望商品、窓数、予算などを打ち込んでメールすると、ボランタリーチェーンの中から一番近い加盟店が、ユーザーの都合に合わせて来訪する。窓枠を採寸して、生地見本やカタログでデザイン、カラー、材質などを相談し、見積を出す。これがOKなら、約一週間後に取り付けにくる。費用は出張や見積は無料。一窓当たりの平均価格は三万円程度と家具センターなみ。さらに手厚いサービスが売り物だ。

「カーテン・ココ」を運営する㈲シーピーエスの戸沢寿史社長は、明治大学を卒業して広告代理店やシンクタンクに勤めた後、八四年に代行サービス会社を作って独立。九一年から住宅リフォーム会社を設立して大手の下請けを続けてきたが、これからはエンドユーザーに直結する仕事が有望と考えて、九五年にオーダーカーテン事業を開始した。

初めての分野だったが、九六年にネット通販を始めたところ、出張採寸を求める声が多かったので、九九年からインターネットによる出前サービスを開始。これが当たって全国から注文が集まるようになった。

自社だけではとても手が回らなくなったため、早速、ボランタリーチェーンを組織。チェーン加盟店には入会金一五万円、年会費五万円を払ってもらい、本部は受注したオーダーを一件三〇〇〇円で紹介する仕組みだ。加盟店にとっては、店舗が不要、在庫が圧縮できる、広告宣伝も必要ない、といった利点がある。これらを武器に政令指定都市の小規模カーテン専門店などを募ったところ、徐々に増えて、現在の加盟店は一二店舗。

今のところ、ホームページのアクセス件数は、月間三〇〇〇件程度だが、メールで打診してきたユーザーの八割は発注する。とりわけ、新築マンションの購入者から「販売会社関連のオプションでは、カーテンの値段が高いし、種類も少ない」という不満が多かったため、昨年八月に「内覧会同行サービス」を開始したところ、一カ月で五〇件の成約をみた。このサービスは、首都圏なら一日一〇〇件まで引き受けが可能だ。

 最近では注文急増で、チェーン内でのサービス水準の維持が急務になってきた。そこで、昨年から加盟店を集めて講習会を開き、技術やサービスの向上も心がけている。

「こうした戦略で、三年後には加盟店を一〇〇店まで拡大し、全体で二五億円の年商をめざします」と、戸沢社長は胸を張っている。


屋上緑化用軽量土壌を開発した──マサキ・エンヴェック(2002.04)

都市の自然回復に関心が高まる折、ビルの屋上を簡単に緑化できる軽量土壌「ルーフソイル」が注目を集めている。九八年の発売以来、マンションの屋上やベランダでのガーデニング需要にのって、個人住宅のみならず市役所、病院、デパートなどからも発注が相次ぎ、すでに約六〇カ所で施工した。

この商品を開発したのは、長崎市の環境ベンチャー、㈱マサキ・エンヴェック(眞崎建次社長)。標高三五〇〇mの高地で採掘した、高純度の有機物を含む腐植土を、中国から輸入してバイオ処理した。保水力や保肥力が高く、水はけや通気性がよいため、発芽、発根、発育が早く、病原菌や雑草の混入もない。普通の土の半分程度の軽さだから、施工も簡単。費用は一〇㎡で、材料のみが約一二万円、施工込みが約二〇万円。

眞崎社長は商船大学を卒業後、㈱神戸製鋼所に入社し、エジプトのセメントプロジェクトに従事。その時、環境保全の重要性に気づいた。父親の病気で故郷の五島に戻り、家業の土木建築資材商社を手伝っていたが、環境ビジネスへの思いは断ちがたく、一九九五年に新たにバイオ環境事業部を設置した。

初めは変わり者扱いで理解者も少なく、五年間は赤字が続いた。だが、幾つかの交流会に加わり、大学・公設研究機関との共同開発に参加し、公的な支援事業に応募するなど、積極的にネットワークを広げた。その結果、高濃度環境共生微生物剤、雨水浄化剤、浮体式水質改善装置、ルーフソイルと、次々に新製品を生み出すことに成功。これらの事業の実績や将来性が評価され、ベンチャーキャピタルからも資金が入った。

二〇〇〇年二月に㈱マサキ・エンヴェックとして独立、第一期の業績も黒字を達成した。さらに同年春には、太陽電池を動力源にしてアオコや悪臭の発生を防止する浮体式水質改善装置「水すまし」の開発が認められ、新エネルギー財団から新エネ大賞を受賞。これが契機で、昨年四月にはニューヨークの国連本部で、日本のベンチャー企業では初めてのプレゼンテーションも果たした。反響は大きく、欧米諸国から三〇件を越す問い合わせが殺到した。

現在の年商は八〇〇〇万円程度だが、今年中に二五社の代理店を一気に一〇〇社まで拡大する。海外へも先進国、発展途上国の特性に応じた方式で輸出を展開する。製品の素材的特性を活かして、他社の製品や技術との融合や、OEM(相手先ブランド)生産による提携も行う予定。また消費者向けに、カップラーメンの容器を利用して、職場の机や食卓の上で簡単に植物を育てられる「テーブルガーデン・フィールグリーン」も発売し、新たな市場開拓も始めている。

「“売り手よし、買い手よし、環境よし”の“三方よし”こそ、わが社のモットーですよ」と、眞崎社長は五年後の株式公開をめざしている。


世界初の新型三輪自転車を開発した──アバンテク(2002.03)

世界最初の“前二輪・後一輪”自転車が、千葉県のベンチャー企業から発売された。

“前一輪・後二輪”の従来車は、スピードが遅いうえ、旋回時にバランスが崩れて倒れやすい、という欠点があった。ところが、新型車は新開発のパラレルリンク機構で前輪と後輪を連動させ、自動的にバランスを回復するので、安定した低速走行と安全なコーナリングが可能になった。またダンパーを利用して段差ショックも約半分に軽減し、車体ブレも少なくスムーズに発進できる。現在、米、英、仏など主要一四カ国に特許を出願中。

寸法は長さ一四〇・六㎝×高さ九五㎝で、幅も六〇㎝と省スペース。カラーは全六色。値段は三段変速の実用タイプが七万九千円、八段変速のスポーツタイプが一三万八千円。

この新商品「トライク」を発売したのは㈱アバンテク(千葉県市川市、工藤敏之社長)。開発を担当したのは、㈱本田技研で永年オートバイや自動車の開発に携わってきた三人のエンジニア。定年退職後も“世界初を作った技術者魂“を忘れず、一九九六年頃から「画期的な乗り物」の開発にとりかかった。

これまで自転車メーカーが“前二輪・後一輪“車に失敗したのは“自転車の延長”にこだわったからだ。“自動車やオートバイのノウハウ“を持ちこめば十分可能と踏んで、三人は短期間に試作車を作り上げた。早速、自転車メーカーに売り込んでみたが、あまりの斬新さに驚いたのか、契約には至らなかった。

この時、資金協力を申し出たのが友人の工藤社長。北海道出身の社長は、某メカトロニクス企業で実用新案や特許を幾つか取った人だ。四人は「他社に売り込むより、自分たちで会社を作り、世界初の乗り物を市場に送り出そう!」と、九七年に同社を設立した。

その後、改良や試験を続けているうちに、新型車の利点が見えてきた。“止まっても倒れない“から、高齢者や身障者はもとより、人口の約半分を占める自転車に乗れない人も利用できる。デザインがユニークだから、トレンドに敏感な若者も飛びつく。雪面でもOKだから、スポーツやレジャーの対象にもなる。自転車よりも荷物を多く積めるから、“ファッショナブルな運搬兼PR車両”にもなる。さらには世界初の“新しい乗り物”として、輸出市場も大きく期待できる。

昨年夏にホームページでモニター販売を開始したところ、問い合わせが殺到したため、九月から生産・販売に踏み切った。現在、ホームページのほか、東急ハンズ横浜店などでも注文を受け付けている。昨年末には習志野工場も完成し、当面は月産五〇台体制で、各地で試乗会を行ったり、代理店も募集する計画だ。また昨年七月から「無印良品」の三輪自転車として、OEM生産(相手方ブランドによる生産)も始めている。「若者から高齢者まで、誰でも乗られる画期的な乗り物として、世界中に売り込みます」と、同社では壮大な目標を掲げている。


子供服のリサイクル店を展開する──東京山喜(2002.02)

昨秋、千葉県にニュータイプの子ども服リサイクル店が開店した。着物のリサイクル事業を展開している東京山喜(東京・中村健一社長)が、イトーヨーカ堂新浦安店に出店した「リサイクルこども館アメリカンキッズ」だ。約一〇〇㎡の店舗には、三〇〇円のTシャツから四〇〇〇円のブランド服まで、約六〇〇〇点の子ども服が並ぶ。

この店の特徴は、全体の三割が米国製の中古品であること。日本で買い取った中古着物を米国で販売し、米国で買い取った中古子ども服を日本で販売するクロスシステムだ。

具体的には、昨年九月からロサンゼルス近郊に「キモノヤ」を出店して、中古着物を販売するとともに、中古子ども服の買い取りを始めた。同時に東京・北千住にアメリカンキッズの一号店を開店。このクロスシステムが順調に立ち上がったため、米国では店舗網を拡大し、国内ではGMS(総合スーパー)への出店にとりかかった。その手始めが新浦安店。三カ月の実験店舗だが、一〇〇〇万円の売り上げが達成できれば常設化し、他の総合スーパーへも出店する計画だ。

中村社長は、一九二四年創業の呉服問屋・東京山喜の三代目。慶大在学中に米国に留学。卒業後に同社に入社し、京都支店長や常務を経て、九三年社長に就任。以後は毎年四億円ずつ売上げを伸ばしてきたが、規模の拡大にとらわれすぎて、九八年に赤字に転落。

そこで、粗利益率の高いリサイクル販売事業に乗り出し、九九年十一月に千葉県に「たんす屋」一号店を出店。中古着物は消費者から店頭や出張買い取りで一日平均約六〇〇点を買い入れ、丸洗いした後、抗菌・消臭加工を施して商品化する。七八年間のノウハウを活かした品質管理の高さと、新品の一〇分の一という低価格を売り物にしている。

最近、着物の新品市場は縮小しているが、若い女性の買いたい物ランキングの上位には、常に着物が登場しているから、販売価格が二万~三万円程度なら需要は固い。また売り上げの二割を占める三〇〇〇円以下の低価格品は、洋服やハンドバッグなどへのリメーク素材として買われている。そこで、ユーザーがリメークした品物を持ち込んで、委託販売するためのスペースを各店に付設した。

たんす屋は現在、全国で約四〇の直営・FC店を展開中。直営店はコスト抑制のため、百貨店やショッピングセンターの空き店舗に居抜きで出店し、FCはリサイクルに関心を持つ呉服メーカーや呉服店などを誘っている。

アメリカンキッズについても、集客力の多さを武器に、複数の大手GMSと出店を交渉している。同社としても、GMSに出店すれば、販売・買い取りとも一挙に拡大できる。こうした積極的な戦略で、二年後には五〇店舗をめざしている。

「一二〇〇億円に成長すると見込まれるリサイクル子ども服市場で、業界のトップをめざしますよ」と、中村社長は意気軒昂だ。


「定年記念免許取得」で新市場を切り開く──高田自動車学校(2002.01)

少子化の影響で自動車教習所の経営が厳しくなっている折、「定年記念免許取得プラン」を開発して注目を集めている学校がある。岩手県南部、陸前高田市の㈱高田自動車学校(田村マサエ社長)だ。

このプランは、ドライブには縁のなかった中高年のために、定年を記念して合宿に参加し、幾つかのオプションを楽しみながら運転免許を取得してもらおうというもの。年齢に見合った丁寧な教習が受けられる上、海釣り、ガーデニング、温泉とグルメツアーなどのオプションも楽しめる。

合宿期間は最短で二二~二三日。料金は普通免許の教習料等が三三~三六万円(四〇日まで保証)。直営ペンションの宿泊費が一泊三食つきで四五〇〇円。オプションが内容によって五~一〇万円。陸前高田までの交通費は二五〇〇〇円まで学校が負担してくれるから、総額は五〇万円前後。昨年一〇月から開始したが、問い合わせがあいついでいる。

プランを開発した田村満専務は、大学を出て地元の整備会社に勤務していたが、同校を設立した両親のあとを継いで教習指導員になり、一九七八年に常務として経営を任された。だが、七〇~八〇年代には毎年九〇〇~一〇〇〇名を維持していた入校生が、九〇年代に入ると急減し、九六年には六二五名にまで落ち込んでしまった。人口二万七〇〇〇人の陸前高田市では、一八歳の人口が八九年の四二三人から二〇〇一年には三二三人にまで減少したためだ。今後の予測でも、二〇〇八年には二五〇人を割るという。

そこで、九八年に新たな土地に学校を移転して、合宿教習中心に切り換え、岩手県内はもとより仙台市や東京都にまでパンフレットを配って宣伝を展開した。この戦略が大当たりして、入校生は徐々に増えはじめ、二〇〇〇年には一二五二人に達した。二〇〇一年には、岩手県内の自動車教習所三一校のうち、盛岡市内の学校とトップを争うまでになった。

一方、教習内容でも、合宿教習では手抜きとなりがちな安全教育やマナー教育にも特に力を入れ、卒業生の無事故率の日本一をめざしている。教習のほかに、交通安全コンサルタントとして、企業や地方自治体から安全教育を請け負っている、同社の自負からだ。

最近では合宿教習の競争がさらに激化してきたため、新たな戦略として開発したのが「定年記念免許取得プラン」。企業戦士として運転免許どころではなかったサラリーマンも、仕事やレジャーなどで、第二の人生を豊かにするためには、車に乗れたほうがいい。とはいえ、今時の若者に混じって教習を受けるのは忍びない。そんな中高年向けに、このプランは最適だ。このほか、ライフスタイルの多様化に対応して、「主婦専業記念免許取得プラン」なども検討中という。

運転免許教習の新たな方向を開発して「小さくとも一流企業をめざします」と、田村専務は胸を張っている。


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