起業動向事例研究2005
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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY

小型液晶ポータブルDVDプレーヤーを発売した…ワーテックス(2005.12)

 七型ワイドのカラー液晶を搭載したポータブルDVDプレーヤーが今秋、開発型ベンチャーから発売され、業界の注目を集めている。

 「MIMEYOI By Hiteker XL―723DVD」は、DVDはもちろん、音楽CD、VCD、ピクチャCD(静止画像など)が再生可能。自宅のテレビやオーディオに接続してプレーヤーとして利用できるし、別売りのテレビチューナーと接続すれば、テレビも気軽に楽しめる。

 約五時間のフル充電で約三時間視聴できるから、アウトドアでも十分楽しめる。振動に強いアンチショックシステムの搭載で画像が安定しており、ビジネスでの移動中や旅行中の車内など様々なシーンで利用できる。二万円台前半のオープン価格で、全国の家電量販店などで売り出し、初年度は一〇万台の販売を見込んでいる。

 この商品を、中国の大手メーカーと共同で開発し発売したのは、群馬県太田市のワーテックス(安俊典社長)。大手パチンコ機器メーカーの開発責任者であった安社長は、パチンコ関連外でもさまざまな商品開発を手がけてきたが、本業以外の部門が縮小されたため、一九九八年四月に退社して同社を設立、多角的な新商品開発に乗り出した。

 最初に開発したのは、腕時計型の脈拍計「ハートレートモニター」。当初は、心臓に負担をかけずに安全に運動するための支援装置をめざしていたが、本格的な商品化には医学的な裏づけや製造物責任法への対応が必要だったため方向転換し、簡単に脈拍を測れる脈拍計を商品化した。二〇〇三年夏に一五、八〇〇円で発売し、これまでに二〇〇〇個を売っている。続いて〇四年の春には、くぎなどで穴が開いても瞬時に水を止める防水シート「桐生遮水シート」を開発。産業廃棄物処分場や屋上緑化の防水用に、建設業界に向けて三億円の売り上げをめざしている。

また同年夏には、パチンコ店向け小型液晶TVシステムを開発。一基の屋外アンテナで約一〇〇〇台のテレビ端末に高画質を受信できる独自のシステムだ。同年秋には、防水型の七インチ液晶テレビを開発。受信アンテナと電源を一本の同軸ケーブルにまとめることで美しい映像を実現し、現在も全国の家電量販店で毎月一〇〇〇台を売っている。

 こうしてみると、何でも屋のようだが、そうではない。全ての開発目標は今後、需要が高まる健康分野や安全分野に向けて、的確に絞られている。現在開発中の新商品も、小型液晶テレビと後方監視カメラ技術を組み合わせて、バスやトラックがバックする際の支援装置、あるいはお年寄りをモニターやセンサーで遠隔監視し、万一の場合は警備会社に知らせるシステムといったものだ。

ユニークな製品の開発・発売してきた安社長は、今後も年に一つ新製品を送り出すとともに、得意の開発力を応用して、販売力についても大胆な戦略を展開する計画だ。


実用具の〝遊戯具〟化で新市場を切り開く・・・ソリッドアライアンス(2005.11)

名古屋ブームの折、九月八日に発売された、ご当地版USBメモリー「Food Disk-しゃちほこフライ」がヒットしている。

 USBメモリーは、パソコン用のデータを記憶させて持ち運ぶ小型機器。普通はスティック型だが、この商品はエビフライの形で、パソコンに差し込むと、丁度シャチホコが生えているように見える。USBハブを利用して二個を向かい合わせれば、デスク上に名古屋城が再現できる。

 機能的には二五六MBのメモリーを搭載しており、希望価格は一二八〇〇円(税込)。 同容量の普通のUSBメモリーが五〇〇〇円前後なのに比べて、かなり高価だが、売れ行きは好調だという。

「しゃちほこフライ」を開発したソリッドアライアンス(横浜市、河原邦博社長)は、国内外のメーカーと協力して、独自のコンセプトでIT商品を開発しているベンチャー企業。河原社長は、三つのIT企業を経て、〇二年に友人と資本金三〇〇万円で同社を設立。新横浜駅近くの、築二〇余年のマンション一間からスタートした。

幾つかの試行錯誤を経て到達したのが〝遊具〟器具。〇三年に「光るアヒル」型のフラッシュメモリー「i―Duck(アイダック)」を開発、十種類の商品を発売したところ、たちまち一万個が売れた。続いて発売したすし型USBメモリー「SushiDisk」一一種類も海外から注目されて、五、〇〇〇個以上を売り上げた。

この成功に乗って、〇五年には「フードディスク」シリーズを発売。春にエビフライ、たこ焼き、シューマイの三種類、夏にカニツメフライ、めんたいこの二種類を追加したが、今なおITショップなどでは「品切れ中」や「入荷待ち」の状態だ。

価格が高く、持ち運びも不便なのに売れるのは、道具を遊具に変えるという〝差戯化〟戦略(詳細は拙著『人口減少逆転ビジネス』参照)の成果だ。これを活かすため、外観の製作は、東京かっぱ橋道具街を代表する食品サンプルメーカーの佐藤サンプルに委託し、一個一個を手作りで作っている。

主な購入層は三〇~四〇代の男性。急進するデジタル社会の中で、この世代は、強いストレスを感じ、気分を和らげるものを求めている。個性や遊び心を重視するし、所得も高いから高価格も気にしない。

そこで、同社では、玩具の要素を採り入れた『PC―Toy』市場の形成をめざして、メモリー以外にも、スパゲティ状のケーブル、ヘルメット状のマウス、携帯音楽プレーヤー「iPod mini」専用の印籠型ケースなどを次々に投入している。

「今後も月に二つのペースで新商品を発売して、自社ブランドの知名度を上げ、やがてはユニークなコンテンツ(情報の内容)分野で勝負に出ますよ」と、河原社長はIT情報市場の新分野を狙っている。


フイギュアーを〝思い出〟ビジネスに発展させた特注人形・・・ブーン(2005.10)

「新婚カップルにそっくりのフイギュアーを作ります」というビジネスが、記念品業界の注目を集めている。

特注人形「me―ni(私似=ミーニ)」は、ユーザーからインターネットや郵送で送られてきた写真を元に、人形職人がまずイラストを起こし、素材用の粘土で一体一体を手作りで成型するもの。イラスト完成と塑像段階でユーザーにメールを送り、イメージや形などを確認したうえで、塗装を施した完成品を宅急便で送り届ける。受注から納品までの標準期間は約二〇日。

サイズは高さ一六センチの二・五頭身から、三〇センチの四頭身まで各種。新婚カップル向けには、ウエディングドレスをつけた「リアルドレスバージョン」もある。価格はカップル用二体セットが五万円から、一体分が三万五千円から。顧客サポート体制も万全を期しており、壊れたフイギュアーの修復や、商品到着後の修正も可能な限り無償で受けている。

現在は新婚向けが中心で毎月一五セットの受注があるが、子どもの誕生日プレゼント、還暦や喜寿のお祝い、故人の思い出用などの受注も増えているという。

 このビジネスを始めたのは、京都市右京区のブーン(及川誠社長)。岡山県でシステムエンジニアをしていた及川社長は、七年前、遊園地のオブジェや映画撮影のセットを作る京都の造形会社に転職、CG制作やインターネットのシステム開発などに携わっているうち、「消費者と直接やりとりするビジネスができないか」と、オーダーメイドのフイギュアーを思いついた。約一年半の研究を経て、さまざまなノウハウを蓄積、昨年秋に分社独立して、「ミーニ」の営業を本格的に開始した。

 「人生の節目をとても大切にする日本人は、その思い出を日本人形などで表しています。ミーニは、その現代版です」という発想で、同社は国内生産にこだわる。海外生産をすれば、価格がもっと下げられるが、品質や納期の長さに問題があるからだ。今後は素材の改良などで、品質を維持したまま値下げする方法を探っている。

 こうした努力が認められて、二〇〇四年度の「関西IT活用企業百撰」に入選。ITの長所とアナログな職人の手作りを結び付けた点が高く評価されたのだ。

当面は月三〇セットの受注をめざしているが、中長期的な目標は、年間約八〇万組という新婚市場の〇・五%、四〇〇〇セット。そこでシティーホテルや結婚関連企業など数社と販売店契約を結び、サンプルの展示を開始した。また日本人形メーカーの大手とも提携し、端午の節句向け商品としても拡販を狙っている。

今後は、もう一つの柱である、法人向けのディスプレー事業とともに、オブジェ&フイギュアー事業を拡大する計画だ。


薬剤師ネットワークが経営する調剤薬局チェーンを開発・・・プチファーマシスト(2005.09)

薬剤師や店員が全て女性で構成された、異色の調剤薬局チェーンが関西に登場し、業界の注目を集めている。

  「元気薬局」、「オレンジ薬局」の名称で展開されている店舗は、明るいカラーのインテリアで統一され、待合室には絵本や玩具などを備えて、幼児や母親が気楽に入店できる。また専門知識の高い薬剤師が行うアドバイスは、患者にとって適切なセカンドオピニオンになっている。

このチェーンを運営しているのは、薬剤師のネットワークを活用した薬局経営をめざすプチファーマシスト(大阪市北区、柳生美江社長)。柳生社長は、武庫川女子大学薬学部を卒業後、大阪大学付属病院の研究所に勤務したが、出産のため二年で退職。その後、薬学部受験指導の武庫川セミナーを開設して、二四年間で千人近い薬剤師を育ててきた。

だが、オーナー経営が一般的な開業医に対し、大半の薬剤師は無資格のオーナーが経営する薬局に雇われている。これではその力がフルに発揮できないと、薬剤師が直接、経営にタッチできる調剤薬局を思い立った。

そこで、九八年から関西学院大学経済学部の博士課程に入学して経営学を学び直し、前期を修了した〇二年一月に同社を設立した。最初の事業は調剤薬局のチェーン化。最近では、医薬分業の浸透で調剤薬局は増えたが、客数不足などで事業継続が困難な薬局が増えている。こうした薬局を買い取って、〇二年一一月、国立大阪店を一号店としてオープン。その後、〇三年一月に三宮店、〇四年一月に九条店、同年六月に梅田店と、次々に新店舗を開設してきた。これらの店では、「医師の処方箋に基づいて調剤する薬局こそ、薬剤師の活躍する場所」という設立理念に基づき、一般薬、健康食品、化粧品は販売せず、てんかん、癌、HIVなど専門性の高い病気を治療する薬に特化した商品構成を守っている。

同社の経営ビジョンは、「薬剤師には活躍の場を提供し、患者にはカスタマー・ファーストの精神に基づいて健康と安心を提供し、以って社会に貢献すること」だという。このため、具体的な目標として、①薬剤師の地位向上のために、優秀で心温かい薬剤師による日本最高の薬剤師集団になる、②薬剤師と患者の相互の利益を追求する企業としてパイオニアたる地位を確立する、③患者がかかりつけ薬局として集まってくる調剤薬局チェーンとしてコーポレートアイデンテイテイを築く、の三つを掲げている。

以上の目標を実現するため、柳生社長は〇三年に大阪市立大学大学院の創造都市研究科へ入学し直し、アントレプレーナシップ(起業家精神)を研究し始めている。今後は後継者のない薬局などを買収して、〇五年中に一〇店舗、〇六年中に二〇店舗をチェーン化する計画だ。また、豊富な人脈を生かして、薬剤師を他の薬局や企業に紹介する事業や薬局開業の支援事業にも乗りだし、数年内に株式の上場もめざしている。


超環境対応型家具で飛躍する…マルイチセーリング(2005.08)

八五%の部材をリサイクル可能にしたソファーが発売され、家具市場で注目を集めている。

このソファーは、一シート毎に独立リクライニング式で、各シートの裏に取り付けたファスナーや面ファスナーを開けると、内部の枠組みやクッションが自由に取り出せる。クッション材には、金属製のバネの代わりに、ゴムと繊維でできた特殊なテープを採用。このため、廃棄したい時には、ユーザーが自ら分解して分別処理でき、骨材やクッション材などは約八五%がリサイクルできる。価格は三人掛けで約二〇万円と、同種の商品に比べやや高いが、環境重視の世論に後押しされて、家具小売店の評判は極めて高い。

新商品を開発したのは、福井県今立町のマルイチセーリング(小林幸一社長)。同社は一九五〇年の創業、五五年に木工部門も付設して一貫生産態勢を整えた。六七年には、高度成長期の波に乗って、関西地方へ進出、独特のオリジナル商品で新しい市場を生み出してきた。例えば、八二年に発表した「SKIP」は、ソファーの足を切り取って、座面を限りなく床に近づけた、革命的な作品。日本の家庭では、床に座ってソファーにもたれる人が多いという、某研究所のデータに基づいて開発したものだ。

その後、〝生活製作所〟を合言葉に、高級ソファー、テーブルセット、リビングボードなどのオリジナル家具の企画・開発・製造・卸売を展開し、合成皮革のカジュアルソファーでは、国内の約四割のトップシェアを占めるまでになった。

だが、二一世紀に入るや、「大量生産・大量廃棄の時代ではない」と直感した小林社長は、環境配慮型企業への転身を宣言。〇〇年に環境管理の国際基準ISO14001を取得し、〇一年にはマイナスイオンを発生するソフトレザー製のリクライニングソファを開発、同社のNO・1商品に成長させた。続いて〇三年に発売した新商品「MARS」から、家具業界初の十年間品質保証制度を導入。購入者へ一年に一度ダイレクトメールを送付して、不具合の有無を聞き、専門部門が対応する仕組みを整えた。

さらに〇四年からはソファー製造一本に絞り込み、より簡単に分別できる商品へ挑戦している。また顧客の好みにカラーを合わせるセミオーダーや、一センチ単位でサイズを変えるオーダーなど、カスタマイズ化への対応も進めている。

現在の販売網は、全国七〇社、約三五〇店の家具店で、大都市圏の大手家具店や各地の地域一番店が含まれる。同時に子会社として、主要都市で五つのアンテナショップを展開しているが、今秋から札幌店や東京・汐留の「カーザデコール」などで、商品の構成を順次、環境配慮型へ切り替えていく。

こうした大胆な戦略で、今後は環境配慮型商品の売り上げ比率を、現在の一五%から三年後に八〇%にまで高め、二一世紀型ソファー専業メーカーの地位をいち早く築く計画だ。

「社会に立つ会社をめざす、という願いを、社員一人ひとりと共有し、これからもわが社らしい仕事をしていきますよ」と、小林社長は熱い思いを語っている。


一八種類の生活支援サービスを全国展開するジャパンベストレスキューシステム(2005.07)

日常生活のさまざまなトラブルを、三六五日、二四時間、全国の主な町へ出張サポートする新サービスが登場し、急速に業績を伸ばしている。

サービスの内容は、カギのトラブル、トイレの水詰まり、ハウスクリーニング、車・家電・パソコンなどの修理、花粉防止用網戸への張り替え、家具など粗大ゴミの回収、害虫駆除など、実に一八種類に及ぶ。カギや水回りなど特定のサービスを提供する会社は数多いが、これほど多様なサービスは初めて。

コールセンター(電話0120-019-049)へ電話すると、専用車両「生活救急車」が駆けつける。料金は会員(入会金二一〇〇円、年会費一〇五〇〇円・ともに税込)になると、部品費だけ負担する。非会員でも利用可能で、平均的な料金は三〇分程度の作業で約八四〇〇円(税込)。大学生向けには、料金を抑えたプランも用意している。急増する高齢者や単身者世帯に、的確に対応したサービスだ。

このサービス「生活救急車」を展開しているのは、名古屋市のジャパンベストレスキューシステム(JBR、榊原暢宏社長)。一九九七年、オートバイのロードサービスで起業した会社だが、「二輪車のカギと一緒に家のカギもなくした」という顧客の声がきっかけで、九九年に住宅のカギ修理に進出、その後も多様なニーズに応えて、次々にサービス範囲を広げてきた。

本社の人員は現在、管理・営業部門とコールセンターの約六〇人。全国で走っている約四〇〇台は、個人事業主、工務店、家電販売店、バイク店など、フランチャイズ方式で全国に作り上げた加盟店の車だ。コールセンターに入った注文は、最適な加盟店に振り向けられている。

もっとも、サービスの水準を維持するため、札幌から福岡まで全国八カ所に研修センターを設けて、専門指導員が実技や接客のノウハウを教育している。開業資金は研修費、車代や工具代など含めて約一〇〇万円。フランチャイズの加盟料は不要だ。開業負担を小さくしたことで、短期間に広範囲な店舗網を作り上げた。

近年は営業を拡大するため、旭硝子、セコム、INAXをはじめ、コンビニエンスストアのローソンやドラッグストア大手のセイジョーなど、他企業との連携を積極的に進めている。〇四年からは、JR西日本や名古屋鉄道と提携し、駅構内にサービス店も開店した。

こうした戦略で、同社は年々会員数を増やしているが、今後は不動産業者、保険会社、大学などとも連携を深め、より多角的な経営をめざす。「一一〇番、一一九番以外のすべてのサービスを提供すれば、新規事業のチャンスはまだまだ広がりますよ」と榊原社長は胸を張っている。


和風雑貨の企画・販売で躍進する…コラゾン(2005.06)

 初夏の足元を鮮やかに彩る和風ミュールが、若い女性たちの間で人気だ。和柄の生地を絶妙な感覚で取り入れ、ジーンズやスカートなどカジュアルなスタイルにはもちろん、浴衣にあわせると意外に新鮮。

色は「あか」「くろ」の二色、サイズはM、Lの二タイプで、価格は三九九〇円 (税込・送料別)。四月からインターネット通販で予約を受けつけているが、申し込みが多く、発送は六月初旬だという。

この商品「着物ミュール」を発売したのは、大阪市北区にある、和風雑貨の企画・販売会社コラゾン(大村智則社長)。東北大学在学中から会社設立をめざしていた大村社長は、松下電器産業、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)で営業やマーケティングを経験した後、二〇〇一年八月、二九歳で同社を設立。商品を通じてユーザーの心を豊かにしようと、「心」を意味するスペイン語「corazon」を社名とした。

大村社長の叔父は、静岡の伝統工芸品『井川メンパ』(ヒノキ材を使った弁当箱)の職人。その技を見て育った社長は、伝統的な工芸技術と若いデザイナーのアイデアを融合すれば、新たな生活雑貨が創造できると、和風雑貨の企画開発と販売へ挑戦した。

商品企画では、「商品は消費者が使ってくれて、初めて価値が生まれる」というコンセプトのもと、事前に綿密な市場調査を行って、三〇歳前後の男女に的を絞った「売れる商品づくり」を徹底的にめざしている。約一〇〇人のデザイナーと契約して、これまでに、古布を使った時計、古伊万里を使ったペンダント、京ちりめんの生地を組み込んだ携帯電話用ストラップや髪飾りなど、ユニークな商品を次々に開発してきた。〇二年からは京都精華大と提携し、学生が授業で作った作品もインターネットで販売している。

〇二、〇三年度には経済産業省からコーディネート事業の認定を受け、新潟県燕市の金属加工業者と提携して、着物生地を組み込んだ食器類を商品化した。またアクリル加工や金属加工など、約五〇社と協力関係を結び、家電などの商品化計画も進めている。

製造体制では、プラスチック成型や金属加工などの製造技術を持つ、東大阪市内や群馬県内の工場約一〇カ所へ発注し、製造コストを工芸品の手づくりに比べて、約三分の一に抑えている。

 他方、販路開拓では、電子部品や洗剤の経験がまったく通用しなかったため、ゼロからのスタート。最初は飛び込み営業で全国を回り、ギフトショーなどの展示会にも積極的に出展、さらにインターネット通販や東急ハンズでの販売を重点的に展開したが、これが実って現在の取扱先は五〇〇社を超えた。〇四年九月には、東京都大田区内に事業所を開設し、東日本での販路開拓を強化している。

 今後の目標として、大村社長は「三年後に売り上げ一五億円、二〇一〇年に株式上場」を掲げている。


世界初の新商品で地域経済を活性化させる…アイカムス・ラボ(2005.05)

世界最薄・最軽量の小型プリンター「プリンパクト」が注目を集めている。長さ一〇六ミリ、幅七六ミリ、厚さ一二・五ミリ、重さは電池を含めて一〇八グラム。名刺サイズの感熱紙を差し込み、携帯電話などに接続してメールや文章を印刷できる。ポケットに納まるサイズで、簡単に持ち運びできるから、携帯電話では読みにくい長いメール、パソコンから外出先に来る連絡文やメモ、繰り返し見たり相手に手渡したいメールなどを、その場で印刷する時に役立つ。昨年六月から発売しており、価格は九八、〇〇〇円。量産できれば一万円以下になるという。

この商品を開発したのは盛岡市の精密機械開発ベンチャー、アイカムス・ラボ(片野圭二社長)。片野社長はアルプス電気の盛岡工場に勤めていたが、〇二年五月、同工場が閉鎖されたため、岩手大の教授や企業の出資を得て、翌年五月に同社を設立。地元出身の作家、宮沢賢治のめざした「理想郷(イーハトーブ=ihatov)を技術面から実現(Comes)しようと、この社名に決めた。参加した五人はすべてアルプス電気の元社員。

 順調に会社が設立できたのは「世界最小のプリンター開発」という。共通の目標があったため。経済産業省から研究費を得て、直ちに研究に取り組み、約一年で〇・一~〇・二ミリほどの微小歯車のプラスチック製歯車を開発。主流の金属製に比べ一〇分の一までコストを下げたうえ、プリンターに組み込むと、印刷ヘッドや紙送り機能を一体化した「メカユニット」になり、小型化が実現できた。耐久性もあるから、医療や玩具など幅広い分野での応用が見込まれており、今後の事業展開が期待できる。

もっとも、この一年間は価格や流通ルートなどがネックで、思ったほど売り上げが伸びなかった。そこで、同社では、岩手県が主要企業と共同で設立した「いわてインキュベーションファンド」の応援を得て、ともすれば弱点だった営業、マーケティング、人的ネットワークなどを補い始めている。

第一弾が通信関連機器のエス・エー・エス(東京)と組んで、外出先から自宅の高齢者やペットの様子をケアするシステム。携帯電話回線を通じて、固定電話のカメラの向きを遠隔制御し、さらにマイクとスピーカーを通じてハンズフリーで通話も交わせる。商品名は介護向けが「ライブケア」、ペット用が「ライブわん」。価格はオープンで、一台四万円程度。福祉施設やペットショップを通じて、今年の四月から販売を始めた。当面はNTTドコモのFOMAシリーズ専用だが、将来は他の携帯電話会社にも対応していく計画だ。

「企業誘致で地域経済を活性化させようという考えは時代遅れです。これからは地元のベンチャーが、大手企業の要望やアイデアを受け入れて新商品を開発し、マーケティングや販促を行って、地場産業を育てていく時代です」と片野社長は胸を張っている。


微生物菌応用のソバをヒットさせたバイオベンチャー・・・北海道グリーン興産(2005.04)

バイオ応用食品といえば、何かと安全性が危惧されている折、全く安全・安心なソバが登場し、業界で注目されている。微生物のトリコデルマ菌を培養した、独自の土壌改良剤で、根の養分吸収力を高めて成長を促し、収穫量を約二割も向上させたもの。環境への負荷も少ないという。

このソバは、バイオベンチャーの北海道グリーン興産(札幌市、佐々木進社長)が、幌加内町の農協と協力して生産した、「霧の朱鞠(しゅまり)」というオリジナルブランド。濃い緑色のそば粉と、コシの強さや甘い風味が売りものだ。昨年末、つゆ付きの半生めん(二人前二四〇g)を八〇〇円、ソバ打ち用のソバ粉(五〇〇g)を一二〇〇円で、札幌市内のデパートで発売したところ、二ヶ月で一三〇〇万円を売り上げた。

札幌市内でレストランを経営していた佐々木社長は、一九八六年にゴルフ場の芝育成や土壌管理をてがける北海道グリーン興産を設立したが、バブル崩壊でゴルフ場開発が減り経営が悪化。新たな収益源を模索していた九〇年、土壌改良研究用に使用していた植生試験場で、植物の活性化に役立つ微生物を発見。研究を続けた結果、九七年に植物の根の栄養吸収を高めるバイオ生菌剤「アグロミックS・K―5―5」の開発に成功した。この生菌は、米やトウモロコシから樹木や花卉まで、あらゆる植物に有効な生育活性促進剤として、国内はもとより海外から注目を集めるようになった。

二〇〇一年には、種苗生産・販売の最大手「サカタのタネ」と提携し、アグロミック生菌剤の販売網を全国に広め、〇二年には、この菌を活用した水稲を空知地区の農協と共同で栽培して、セブンイレブングループに納入。〇三年からは、玉ネギ、ジャガイモなどにも試験栽培を開始している。

〇四年には、この菌による高品質の道産米に注目した、化粧品・健康食品通販最大手「デイーエイチシー」の発芽玄米工場を空知・長沼へ誘致。用地確保、開発申請、技術者の選定といったデベロッパー業務にも協力し、総合的な技術力で国内最大規模の発芽玄米工場を道内に呼び寄せた。

今年からは北海道大学と共同し、トリコデルマ菌を大量培養して、化学肥料や農薬を全く使わない新型農業の研究に乗り出す。また耐熱、耐寒性に強い厚膜胞子の特徴を活かして、自然環境の厳しい海外の農地への適用や、砂漠化の進む大陸奥地の緑化など環境ビジネスへの応用も計画している。

「北海道を本州への食料供給基地から脱皮させるには、農産物の高付加価値化が鍵」と主張する佐々木社長は、その理念を「霧の朱鞠」で初めて実現した。続く第二弾として、今春にはこのソバを原料にした特製焼酎も発売。菓子類などと合わせて「霧の朱鞠」シリーズに仕立て上げ、今年度の売り上げを一〇億円の大台に乗せる計画だ。

最終的には、農薬や化学肥料に頼らない、新たな農業システムの実現をめざす佐々木社長は、今年七三歳。「これからは、アグロミック菌を応用して、アフリカの砂漠に緑を取り戻し、アマゾンの熱帯雨林を再生したい」と壮大な夢を語っている。


オタクグッズで世界に飛躍する…オビツ製作所(2005.03)

 成熟国家の戦略商品として、今や目の離せない“オタク”グッズの中で、とりわけ愛好者の注目を集めているのが「オビツボディ」。

 二〇〇二年夏に発売された、このフィギュアは、硬質樹脂製の骨格に軟質樹脂製の表皮をまとわせたボディ人形。手足の関節が自由自在に可動して、ユーザー好みのポーズが取れるうえ、足裏に内蔵した強力な磁石で、補助スタンドなしに一本足で立てられる。これは世界で初めての機能だ。そのうえ、頭部、両腕、上下腰部、胸部なども簡単に取り外せるから、衣装の着脱もできるし、人形の命である眼球も指先で容易に取り付けられ、多彩な表情を楽しめる。男女別に数モデルがあり、まさにフィギュアファン垂涎の逸品だ。

 価格は二七cmサイズが一七〇〇円前後、六〇cmサイズで二万円と、競合他社製品の三分の一。この低価格が実現できたのは、同社独自の「スラッシュ成型」技術。通常のインジェクション成型では、複数の金型で一つひとつ成型したパーツを組み合わせて製品を作っているが、この方式だと、一発型抜きが基本で、より少ない金型ですむ。このため、金型代が従来の六分一分~八分の一と安くなるうえ、パーツを組み合わせる手間が省けるから、製作時間もかなり短縮できる。

 「オビツボディ」を開発したのは、東京都葛飾区のオビツ製作所(尾櫃三郎社長)。尾櫃社長は一九六六年に玩具メーカーから独立して、同社を設立。以後三九年間、ソフトビニール玩具、フィギュア、ガレージキットなど、さまざまな人形を製造し、販売してきた。

 だが、この一〇年間は、大手玩具メーカーが製造コストの安い中国へ生産拠点をシフトしたため、金型や色塗りなどの熟練職人が次々と仕事を失っている。「これでは、職人技術が失われてしまう」と危機感を覚えた社長は、多品種少量品ならコスト競争でも中国に太刀打ちできると考えて、経営の方向を玩具の製造輸出から国内向け製造販売に移してきた。

 とりわけ、フィギュア分野では、他社製品の完成度がまだまだ低いと見て、約三年の試行錯誤を重ねた結果、「オビツボディ」を完成させた。これが認められて、〇四年の春、中小企業優秀新技術・新製品賞(りそな中小企業振興財団)の奨励賞を受賞。

 最近ではオタクブームの影響で、かつては子ども向けだった人形玩具市場にも、三〇~四〇代の大人までが入り込んでいる。そうしたマニア層の間では、口コミの浸透で、オビツボディの評判は高い。またインターネットの拡大で、米国、英国、カナダ、韓国などにも愛好者が広がり、海外からの注文も増えている。

 今では何でも海外で安く大量に造れる時代。「国内の製造業者として生き残っていくには、特許権を取得できるような高付加価値商品を、次々に開発し続けるしかないでしょう」と尾櫃社長は日本のゆくえを見通している。


在宅ワークの仲介システムを開発した…サポート(2005.02)

 主婦や学生の間に広がっている在宅ワークは、営業力が弱い。他方、コスト削減のためアウトソーシングを望む企業は多いが、信用力で躊躇する。そこで、両者の“架け橋”となって、インターネットで継続的に仕事を仲介しつつ、業務のチェックも行うという、新しいビジネスが登場し、新規雇用創出の面からも注目されている。

 委託業務の中心は、携帯電話サイトで見られる賃貸不動産物件の、間取り図面の作製。自宅のパソコンで、専用のソフトを使って、マンションやアパートの間取り図を、さまざまなパーツを組み合わせて作製してもらう。ミスがあると困るから、会員には事前に基礎講習を受けてもらったうえ、社内チェックも厳しく行う。会員の登録費は一万円。委託料は、間取り製作が一件二〇〇円、物件データ入力が一件七〇円、携帯画面用の不動産看板デザインが二二五〇円など。

 このシステム“チルダ(~を意味するパソコン用語)”を開発したのは、大阪市で企業再生などコンサルティング業を展開する㈱サポート。同社の喜多博社長は地方銀行の支店長を勤めた後、人材開発会社を経て、二〇〇〇年に独立。人事、不動産、情報などのコンサルティングサービスを展開してきた。中小企業向けの経理業務代行では、専門スタッフと会員による会計記帳業務と税理士など専門家による決算業務の二つに分業化させる、画期的なシステムを開発し、コストを従来の三分の一に抑えることで、二〇〇社を超える顧客を獲得している。

  〇二年から始めた、携帯電話による不動産検索サイト「Room―i」は、賃貸物件の看板に二次元バーコードを付け、携帯電話で写真撮影すると、詳細な物件情報が現れるという、新情報サービス。この時、サイトに示す間取り図面製作を、外部に委託すればコストが半分以下になると考えて、「チルダ事業部」を同時に発足させた。見込みが当たって、わずか二年で登録者は二〇万人を突破、間もなく三〇万人に達する勢いだ。

 最近では、委託業務の内容がIT関連以外へ広がり、フリーペーパーの編集、アンケートの収集、ポスティング、さらには銀行からの委託で不良債権物件の外観写真を撮ったり、謄本を入手するという、リアルな作業も増えている。今年からは、弁当宅配など外食関連にも進出する。

 他方、京都一〇大学のベンチャーをめざす学生と組んで、新規事業を始める「スチューデントチルダ」や、会員組織を活用してマーケティングの情報を発信する「チルダサロン」など、様々な活動を展開する計画だ。

 創造的な事業展開が認められて、〇四年秋、関西ニュービジネス協議会から大賞と近畿経産局長賞をダブル受賞した。「ITとアナログの融合にこそ、新規ビジネスのチャンスがあります」と語る喜多社長は、二年後の上場をめざしている。


超柔軟ゴムを開発し、脱下請けに成功した…加地(2005.01)

 「EXGEL(エクスジェル)」という新素材が注目されている。荷重が加わるとゆっくり沈み、荷重がなくなると静かに戻るという、超柔軟な合成ゴムだ。他のゴムより荷重を分散できるから、衝撃吸収や形状維持に適しており、触った感触も人肌のように柔らかい。

 そこで、車いす用クッション、チャイルドシートの衝撃吸収材、床ずれ防止用ベッドマット、手術台用マット、産婦人科分娩台用マット、マッサージ台用枕など、すでに五〇を超える商品に応用されている。競合する欧米製品に対して、価格が三〇~五〇%も安いため、最近では医療・福祉分野のメーカーや専門店などから、新たな製品の開発依頼が殺到している。

 この新素材を開発したのは、島根県横田町の靴縫製会社、加地(小川國夫社長)。一九六九年の創業以来、大手靴メーカーの下請けを続けてきたが、八〇年代から取引先が韓国や台湾へ工場を移転しはじめたため、業態転換を迫られた。当初は独自の多品種少量生産システムで特許を取り、受注減をしのいできたものの、やはり経営は不安定。本質的に安定させるには、独自の製品を開発して、下請けから脱皮する以外に手はなかった。

 そんな折、大手企業から転職してきた技術者が、靴底用合成ゴムの配合を研究中に偶然、人肌のように柔らかいゴム素材を創りだした。何かに使える、と考えた社長は、「EXGEL」と名づけて、九五年に商品研究開発部門を設置。一億円を投資して一年半の間、さまざまな自社商品の開発を試みた。

 試作品はヘルスケア用品、メディカル用品、オフィス用品、自動車用品などに及んだため、九八年から社長自身がこれを持って全国を行脚。初めのうちは反応が悪かったが、やがて「同種の製品のうち一番いい」と、クッションメーカーなどが認めるようになった。そのころから、エクスジェル部門の売り上げが伸びはじめ、最近三年は倍々で推移、全販売額の約八割を占めるまでになった。

 成功の秘訣は「技術、商品、販売網の三つが不可欠」という経営方針。第一は基礎技術力。EXGELでは二〇件以上の特許を申請中。第二は商品開発力。通常、三〇万~五〇万円かかる金型を、非金属製の型枠を使用することで数万円に抑え、かつ加工が容易な非金属製の特性を活かして、商品開発のリードタイムを最長一カ月に短縮した。第三は独自の販売網。北海道から九州まで、福祉機器メーカーや専門店などへ、メーカーや商社に頼らない、独自の販売ルートを構築した。

 同社は現在、横田町の本社・工場に加え、横浜、京都、福岡の三営業所と仁多工場に、社員六〇数名を抱え、昨年五月には第一二回中国地域ニュービジネス大賞優秀賞を受賞。「下請けを続けていたら、この栄光はなかったでしょう」と小川社長は述懐する。今後はエクスジェル部門を軸に一〇億円の売り上げをめざし、店頭公開も射程に入れている。


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