起業動向事例研究2007
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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY

高付加価値商品でタオル市場を革新する

八木満タオル(2007.03)

「O2・からくりネック」というユニークなタオルが、ネット上でヒットしている。筒状のタオルに空けた穴にもう一方の端を通すと簡単に頭や首に巻けるもので、汗拭きはもとより保温用、冷房対策、ジョギング、ウォーキングなど、スポーツ時や睡眠時に最適。化学糊を使用しないで、吸水性を高めた肌触りも売り物だ。二二色ものカラーがあり、価格はどれも一五七五円(税込)。

この商品を発売しているのは、創業四七年目を迎える八木満タオル(愛媛県今治市、八木宣彦社長)。いうまでもなく今治市は全国屈指のタオル産地だが、近年は中国など海外からの輸入急増に圧倒されて、生産量は激減している。ピーク時には五〇〇社以上あったタオルメーカーも、今では一五〇社を切るまでに減った。

こうした悪環境の中で、八木社長は従来からの問屋ルートに加え、インターネットを利用した直販システムや高付加価値の商品開発に積極的に取り組んできた。一九九六年には早くもネット通販へ参入。従来の市場情報は問屋経由が多かったから、商品構成の拡大や新製品開発のためにはどうしても消費者の生の声が聞きたかった。そこで思いついたのがインターネットの活用だった。

直ちに電子商取引サイトとして『やぎさんメール便』を開き、バスタオル、フェースタオル、おしぼりなどのセット販売を開始した。〝タオルヤギ〟というイメージキャラクターを専用配送箱にプリントして、直販体制を整え、工場から直送して価格を市場の三~五割に抑えた。この戦略で海外製品以下の価格と国産の高品質を両立させることに成功したため、会社の知名度は急速に上がった。

 これを武器に自社製品の開発も拡大。ネット通販の開始時には約六〇点だったが、その後は付加価値の高い二次製品を次々に開発して、二〇〇点を超えるまでになった。新商品の中でとりわけ市場の注目を集めたのがタオルマフラー類。タオルの用途をマフラーに広げたもので、その一つ「パイプマフラー」は〇一年に「二一世紀えひめの伝統工芸大賞」(愛媛県主催)で優秀賞を受賞した。

〇二年には、おしぼりに店舗名や名前などを刺しゅうする「オリジナルおしぼり」を発売。喫茶店、料理屋、スナックなどを対象に、ネット上から三〇枚の小ロット単位でも受注できるようにした。続いて〇三年にはタオル織機で織った布を使用した、オーダーメードの靴にも挑戦。そして〇四年に発売した「O2・からくりネック」も、先の伝統工芸大賞の〇五年奨励賞に輝いた。
 
こうした努力の甲斐あって、自社製品の総売り上げに占めるネット通販の比率は急伸し、開始時の約二倍の二〇%までに成長している。「今や消費者の気持は、単なる安売り商品から、オンリーワンかつ高品質な商品へと動いています。わが社のターゲットはそこにありますよ」と八木社長は自信満々だ。

写真提供:八木満タオル

獣害防止製品で第二の創業を果たした

・・・近江屋ロープ(2007.02)



亥年の課題としてイノシシと人間の共生が求められている折、画期的な獣害防止製品を開発して、業績を伸ばしている会社がある。

猪・鹿害防止システム「イノシッシ」は、ネットの代わりに軽量の金属メッシュパネルをつなぎ合わした獣害防止柵。支柱の設置が容易、間伐材の利用が可能、スカート部の採用で動物をネットに近づけない、草刈や人の出入りが容易など、新しい機能が従来の製品を超えている。価格は一〇〇m単位で一九万円(高さ一・二m用)から二五万円(同二・〇m用)。施工費がいずれも八万円。

二〇〇二年に発売したところ、全国の植林地や田畑、山沿いの公園などから数キロ単位で注文が舞い込んだ。京都嵯峨野の常寂光寺では裏山一体に設置して紅葉の幼木や貴重なこけを守り、岡山県の急峻な中山間の公共事業では村落の田畑を守っている。

システムを開発したのは京都市下京区の近江屋ロープ(野々内達雄社長)。江戸後期、文化年間に創業された「綱」卸の老舗だが、戦後はクレーン車用ワイヤーなど建設・土木工事向け製品を主力に成長してきた。だが、バブル崩壊で受注が減り、中国製の安い製品との競争も激化して、業績は急激に悪化。

そこで、九六年ころから、長年培った技術を生かそうと、植林地や田畑を守る獣害防止製品の開発に取り組んだ。その第一弾として九七年秋、同社の取扱商品の一つで、ビルの建設現場で使われている落下防止用の安全ネットを転用し、獣害防止ネット「グリーンブロックネット」を発売した。この装置では、ネットを高さ約一・八mのフェンス状に張ったうえ、手前の地面にも幅九〇cmのネットを広げた結果、もぐったり飛び越える動物を防止することができた。施工方法でも、材木搬出用ロープを使った、山中での施工技術の蓄積を生かして、どんな険しい場所でもネットをスムーズに取り付けられる手法を導入し、他社との差別化を進めた結果、新たな市場を開拓することに成功した。

 これに自信を得て、続いて開発したのが「イノシッシ」。さらに第三弾として、〇四年夏には微電流を流して猿害を防止する「さるさるネット」も発売した。これら新製品の売り上げは二億円近くに達する勢いで、老舗企業は環境調和型獣害防止産業という、第二の創業を見事に実現することができた。

以上の実績が認められて、二〇〇五年末には、㈶京都市中小企業支援センターから「企業価値創出支援制度」の認定を受けた。続いて〇六年夏には、㈳日本ニュービジネス協議会連合会の主催する第一回ニッポン新事業創出大賞で、アントレプレナー部門賞を受賞するという栄誉にも輝いた。

 「当社の商いの原点、ロープの持つ〝絆〟や〝つながり〟を大切にしつつ、〔野生動物と人間との共生〕という、新たなテーマの実現に取り組んでいきますよ」と、野々内社長は未来を見すえている。

写真提供:近江屋ロープ

超高価な「濡れない洋傘」で大ヒット

・・・福井洋傘(2007.01)


 一〇〇円ショップでならワンコインで買える洋傘が、なんと三万四五〇円で大ヒットしている。「濡れない傘・ヌレンザ」という高級傘で、閉じた瞬間に水をはじいて乾いた状態になる。

 二〇〇五年一月に発売したところ、超高価にもかかわらず口コミで人気が広がり、現在でも手に入れるには二、三カ月待ちの状態が続いている。

 開発したのは、一九七二年創業の「福井洋傘」(福井市、橋本平吉社長)。きっかけは、福井商工会議所がインターネット上に開設している「苦情・クレーム博覧会」に、「もっと水切りのいい傘はできないのか!」という要望が寄せられたことだった。これに応えようと同社では、フッ素樹脂の塗布で撥水性を高めるという従来の製法を根本から見直し、地元の生地メーカーの協力を得て、水滴をはじき飛ばす超高密度ポリエステルの布地を開発した。 

 もともと同社は、農村振興をめざした橋本社長が、傘製造会社の協力工場として、納屋からスタートした企業。七〇年代後半から傘メーカーの海外流出が始まったため、自社販売に転換、百貨店などでの対面受注を軸にして堅実な経営を続けてきた。その基本は、廉価な量産品に対抗できるユニークな洋傘やオーダーメイド製品の製造。

 例えば〇四年に発売した「雨音を楽しむ蛇の目傘」は、傘に当たる雨音が太鼓の音のように快く聞こえる商品。伝統的な蛇の目傘の和紙をポリエステル製の布に変え、通常八~一二本のフレームを一六本に増やし、微妙な布の張り加減に神経をとがらせて、いい音を出せるよう工夫した。カラーも日本の伝統色二一色をそろえ、柄の部分は越前漆器を導入するなど高級感を漂わせた。価格は二万八〇〇〇円から。

 他方、オーダーメイドでは、独自の絵柄や家紋を入れるほか、ブドウ園経営者向けのブドウの木を使った柄、外国製と同じ傘、思い出の傘の復元なども受注している。
さらにすべての顧客に対して、氏名、住所、電話番号、購入商品やカスタマイズの詳細などを記録した「傘のカルテ」を作って管理し、これに基づいて骨の取替えや布を張り替えなど修繕も実施している。「良いものを手入れしながら長く使うのが日本の伝統文化」という発想からだ。

 こうした製造理念が、トヨタ自動車㈱から「当社の物づくり思想と共通する」と認められ、〇六年の秋から「ヌレンザ」は、高級車ブランド「レクサス」の販売店で、「レクサスコレクション」の一つとして全国的に売り出された。

 今後も「一生壊れない傘、一生汚れない傘を、よい材料で安く仕上げ、安い値段で提供する」という理念を貫き、「小さくても世界に出して恥ずかしくない洋傘をこの町で作っていきたい」と、橋本社長は福井県発の世界商品をめざしている。

写真提供:福井洋傘

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