亥年の課題としてイノシシと人間の共生が求められている折、画期的な獣害防止製品を開発して、業績を伸ばしている会社がある。
猪・鹿害防止システム「イノシッシ」は、ネットの代わりに軽量の金属メッシュパネルをつなぎ合わした獣害防止柵。支柱の設置が容易、間伐材の利用が可能、スカート部の採用で動物をネットに近づけない、草刈や人の出入りが容易など、新しい機能が従来の製品を超えている。価格は一〇〇m単位で一九万円(高さ一・二m用)から二五万円(同二・〇m用)。施工費がいずれも八万円。
二〇〇二年に発売したところ、全国の植林地や田畑、山沿いの公園などから数キロ単位で注文が舞い込んだ。京都嵯峨野の常寂光寺では裏山一体に設置して紅葉の幼木や貴重なこけを守り、岡山県の急峻な中山間の公共事業では村落の田畑を守っている。
システムを開発したのは京都市下京区の近江屋ロープ(野々内達雄社長)。江戸後期、文化年間に創業された「綱」卸の老舗だが、戦後はクレーン車用ワイヤーなど建設・土木工事向け製品を主力に成長してきた。だが、バブル崩壊で受注が減り、中国製の安い製品との競争も激化して、業績は急激に悪化。
そこで、九六年ころから、長年培った技術を生かそうと、植林地や田畑を守る獣害防止製品の開発に取り組んだ。その第一弾として九七年秋、同社の取扱商品の一つで、ビルの建設現場で使われている落下防止用の安全ネットを転用し、獣害防止ネット「グリーンブロックネット」を発売した。この装置では、ネットを高さ約一・八mのフェンス状に張ったうえ、手前の地面にも幅九〇cmのネットを広げた結果、もぐったり飛び越える動物を防止することができた。施工方法でも、材木搬出用ロープを使った、山中での施工技術の蓄積を生かして、どんな険しい場所でもネットをスムーズに取り付けられる手法を導入し、他社との差別化を進めた結果、新たな市場を開拓することに成功した。
これに自信を得て、続いて開発したのが「イノシッシ」。さらに第三弾として、〇四年夏には微電流を流して猿害を防止する「さるさるネット」も発売した。これら新製品の売り上げは二億円近くに達する勢いで、老舗企業は環境調和型獣害防止産業という、第二の創業を見事に実現することができた。
以上の実績が認められて、二〇〇五年末には、㈶京都市中小企業支援センターから「企業価値創出支援制度」の認定を受けた。続いて〇六年夏には、㈳日本ニュービジネス協議会連合会の主催する第一回ニッポン新事業創出大賞で、アントレプレナー部門賞を受賞するという栄誉にも輝いた。
「当社の商いの原点、ロープの持つ〝絆〟や〝つながり〟を大切にしつつ、〔野生動物と人間との共生〕という、新たなテーマの実現に取り組んでいきますよ」と、野々内社長は未来を見すえている。
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