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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY
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AIがファッションを変える?
          
クリエイターに求められるメタファー力とパロールⅡ
現代社会研究所所長・古田隆彦


AI(人工知能)が囲碁・将棋対局、小説創作、自動運転などで予想以上の成果を上げ、その影響がファッション産業にも及び始めている。
AIは今、1950年代の第1次、80年代の第2次に続いて、第3次の発展期にあり、私見によれば、第2次のエキスパートシステムを継承・発展させ
認知推論系と、ディープラーニング(深層学習)を中核とする機械自習系の、2つの系列が主導している。

◆コーディネートはAIへ

ファッション産業へのさまざまなインパクトを、両系列の代表的なソフトウェアで整理してみると、表のようになる。

一般ユーザー向けでは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の画像共有ソフト、インスタグラムに載ったコーディネート画像をランキング別に閲覧して選べる「FAMME」、ユーザーや家族の写真からアバター(分身)を作成し、幾つかの衣類を仮想で試着できる「Coordinate Plus」、アプリ内に登録されたブランドを「好き・嫌い」で分けると、好みのコーディネート案が示される「SENSY」、カバンや靴の写真を送ると、画像解析をして、購入できるサイトへ誘導する「Deepomatic」など。

リテール向けでは、ユーザーが質問をアップすると店舗スタッフが回答し、気に入ればショップへ誘導する「STYLER」や、店舗内のカメラが捉えた映像からユーザーの特性を自動解析し、店舗運営の改善策を提案する「ABEJA Platform」など。

メーカー向けでは、あらゆるマーケティングデータを蓄積・分析して、成功·失敗要因を抽出する「B→Dash」や、SNS上の画像をディープラーニングで解析し、商品別にユーザーの利用状況を把握する「利用シーン発掘サービス」など。

デザイナー向けでは、ベースとなる文字から好みの形のフォントを作り出す「Project Faces」や、数十万枚もの大量の絵画や写真をディープラーニングしたうえで自動的にイラストを描く「DCGAN」など。

このようにAIは、幾つかの対象へすでに影響を与えているが、今後は急速な進展で、業務内容から就業構造にまで幅広く波及していく。

ユーザーには衣料の選択補助役や専属のスタイリストとなり、リテールには販売員支援、スタイリスト代行、陳列・在庫管理、レジスター支援、顧客行動分析などで省力化を次々に進める。

またメーカーには需要予測、マーケティング、工程管理、在庫管理、経営管理などを迅速化・高度化し、そしてデザイナーにはデザインやカラーリングの代行など、創作活動の支援も可能となろう。

◆クリエイターへの影響は?


前の3者にはかなりの影響が予想されるが、デザイナーやカラーリストなど、いわゆる
クリエイターにはどうなのか

言語学や心理学など現代思想の知見に応用すると、
人間の思考力や創造力には、2つの重要な構造がある。

一つは思考の基本となる
言語能力で、単語を扱う能力(セマンティクス)と文法を扱う能力(シンタックス)の2つがあり、前者は、目や耳の捉えた情報を言葉やイメージに置き換えたうえ、既存の類似物と突き合わせて特定する外示(デノテーション)と、それらを抽象的に比喩化する共示(コノテーション)に分かれる。さらに共示には換喩(メトノミィ)と隠喩(メタファー)の2つがある。

もう一つは
情報の交流力で、社会的な言語体系(ラング)を学習したうえで情報を交換する会話力(パロールⅠ)と、自分なりの表現を加える発信力(パロールⅡ)に分けられる。

2つの構造のうち、
クリエイターに特に求められるのは、メタファー力とパロールⅡ力だ。

ところが、
AIには自然言語処理が苦手という、大きな壁がある。ロジックの把握とその応用が得意な認知推論系は、シンタックスには強いものの、セマンティクスには弱い。機械自習系も外示を抽象化する共示となると、メトノミィはできても、メタファーには手が出ない

尖った筆記用具を「ペン」、長い刃物を「剣」、白い鳥を「ハト」、獰猛な鳥を「タカ」と名づけるまではできるが、「ペン」で作家を、「剣」で軍人を表すのはかなり難しい。何とかできたとしても、
ハトで「平和」を、タカで「軍備」を表すまでには、まだまだ時間がかかりそうだ

一方、ビッグデータの解析でラングの習得が大幅に進めば、パロールⅠはそれなりに可能となろう。だが、
人間の個人的経験や感性がリードするパロールⅡとなると、ほとんど不可能だ。

いうまでもなく、AIの進展でデザインの素材や参考物は飛躍的に拡大するから、デザイナーの作業負担は大幅に減る。

だが、トレンド追随型はともかくも、
トレンド破壊型のデザイナーにとっては、その役割が前例のない隠喩を駆使して、説得性の高いデザイン、パターン、カラーを独創することにある以上、AIの影響は限定的なものに留まるだろう。

(詳しくは 繊研新聞:繊研教室StudyRoom,2016年6月7日)

年齢区分を見直すと新需要が見える!
現代社会研究所所長・古田隆彦


平均寿命の上昇で、年齢の区分が上昇し、人生の仕切り方も大きく変わってきました。

これまでは寿命が70歳前後であった、1960年ころの人生観に基づいて、0~6歳を「幼年」、7~14歳を「少年」、15~29歳を「青年」、30~64歳を「中年」、65歳以上を「老年」とよぶのが一般的でした。

ところが、2014年の平均寿命は、女性86・83歳、男性80・50歳となりました。平均寿命は0歳児の平均余命ですから、65歳に達した人であれば、女性は89歳、男性は84歳まで生き延びます。人生はすでに「85〜90歳」の時代に入っているのです。

こうなると、過去の年齢区分はもはや通用しません。寿命が1.2~1.3倍に延びた以上、年齢区分もまたシフトさせ、0~9歳を「幼年」、10~24歳を「少年」、25~44歳を「青年」、45~74歳を「中年」、75歳以上を「老年」とよぶほうが適切になるでしょう。

エッ、と思われるかもしれませんが、世の中を見渡せば、この区分はすでに通用しています。

過去10数年、新成人となった若者に聞くと、約7割が「自分は大人ではない」と答えています。

40歳で青年会議所を卒業した男女も、44歳くらいまでは会合に出席しています。

近ごろの70歳は、体力、気力、知力とも旺盛で、老人とか高年者とよばれると、顔をしかめます。このように、現実はすでに新しい区分へ近づいているのです。

とすれば、消費市場においても、新年齢区分に対応する、新たな生活需要が発生してきます。例えば、次のような商品です。

●新幼年市場(0~9歳)・・・7~9歳向けキャラクター系ファッション、タブレット型知育玩具、職業疑似体験型遊園地など。

●新少年市場(10~24歳)・・・15~20歳向けタブレット型教育端末、20代少年向けキャラクターグッズ、VOD(ビデオ・オン・デマンド)学習塾、VODゲームサービスなど。

●新青年市場(25~44歳)・・・30~40代向けヤングファッション、ゲーム・アニメなどオタク商品、「青春忘れ物」関連ブックなど。

●新中年市場(45~74歳)・・・60~70代向けフィットネスクラブ、職能再訓練センター、往年ヒット曲ベスト盤など。

●新老年市場(75歳以上)・・・70~80代向けIT教室、ゆとり旅行、「昭和再現」ゲームセンター、高度サービス付き住宅など。

とりわけ注目すべきは90歳近くにまで伸びた人生を、どうやって生き抜くかという、人生再構築産業です。従来の人生前半型教育に加えて、中年以上の生涯学習やトレーニング産業など、人生の後半に重点を置いたサービスが強く求められます。

あるいは、永い人生をより充実させ、より楽しくさせるための新しい遊戯産業、スポーツ産業、アート産業なども有望となるでしょう。

ジーンズ業界もまた、新幼年や新老年向けなど、新しい年齢別需要にむけて、新商品を打ち出してはいかがでしょうか。


(詳しくは「FASHION VOICE」:カイハラ㈱:83号=5月号

ニュー・ボーダレス時代が始まった
現代社会研究所所長・古田隆彦


ファッション市場では近年、ジェンダーレス、タイムレス、ブランドレスなど、これまでの常識をくつがえすような、斬新なトレンドが始まっています。

「ジェンダーレス」とは、紳士用と婦人用の性差を超えて、男女どちらでも着られるデザインやカラーのファッション。不要な衣料はできるだけ買わない節約志向に、好みの衣料をパートナー間で共有するライフスタイルが加わって、意外な流行が生まれました。

母親の古着を娘さんが活用する「タイムレス」も広がっています。1970~80年代のレトロファッションを、手ごろな価格のファストファッションと組み合わせて、個性的なスタイルに変換します。コンサバ系やDCブランドを、ガウチョパンツやつば広ハットと合わせるのが最先端です。

「ブランドレス」は、有名デザイナーのブランド商品を、スーパーやファストファッションストアで売り出すもの。ゴルチェの商品をセブン&アイ系の通販やスーパーで発売する「ジャンポール・ゴルチェ・フォー・セット・プルミエ」や、エルメスの元デザイナー、クリストフ・ルメールのデザインした商品をユニクロ系で売り出した「ユニクロアンドルメール」などが代表例です。

従来のファッション市場では思いもつかなかった、大胆な発想ですが、この背景には一体、何があるのでしょうか。

一つはユーザーの消費志向の変化。総務省の家計調査によると、世帯当たりの被服・履物支出は年間15・2万円と、バブル期の半分に落ちています。この1、2年やや回復していますが、大きな伸びは期待できません。

もう一つは人口減少。人口が減り始めて8年、消費者の数も急減しています。今後も減り続け、10年後には90%前後、20年後には85%前後にまで落ちていきます。

厳しい市場環境の中で、アパレル産業が生き抜いて行くには、既成のファッション観を大きく打ち破り、消費者に向けて、全く新たな 〝衣服〟観を提案していくことが必要です。先端的なアパレル企業が、前衛的な商品を打ち出してきたのはこのためでしょう。

こうした戦略の延長線上には、フォーマルとカジュアルを超える「シーンレス」、オーダーとレデイメイドを超える「メイドレス」、洋服と和服を超える「ネーションレス」など商品のレス化や、ヤングとシニアを超える「エイジレス」、健常者と障害者を超える「バリアレス」、日本人と外国人を超える「ステートレス」など、ユーザー層のレス化も必要です。

30年ほど前に流行した「ボーダレス」という言葉は、国境を超えるという意味でしたが、今問われているのは、さまざまな次元での境界を見直す「ニュー・ボーダレス」です。ジーンズ市場でも、従来のボーダーを超えた商品とサービスに向けて、デザインから素材や縫製、製造から流通に至る、あらゆる工程での、多面的な挑戦が期待されます。


(詳しくは「FASHION VOICE」:カイハラ㈱:81号=1月号

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