人口波動研究室
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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY  
この研究室では、古田隆彦が独自に提唱する「人口波動説」「人口波動法」を研究しています。
成果の一部として、書籍、新聞、雑誌などに寄稿した論文を再掲します。


人口波動とは・・・

 歴史的な人口推移の中に見られる、人口のうねりを、古田隆彦が初めて「波動」と名づけたものです。
『人口波動で未来を読む』1996)
 
 これが人口波動です。(世界波動日本波動



人口波動説
とは・・・


●人口波動説は、人口容量、人口抑制装置、人口波動(修正ロジスティック曲線)という3つの仮説から構成されています。

●第1の仮説「人口容量」は、生物学や生態学で使われている「キャリング・キャパシティー(Carrying Capacity)」を人間の社会に適用し、国家や地球が養える人間の規模を想定するものです。

キャパシティーを決定する要素は、動物の場合でも食糧、汚染状態、接触密度など、その時々の物質的条件で変わってきますが、人間の場合はさらに複雑で、食糧や居住環境を基礎としつつも、所得、時間、自由度といった社会的、文化的な条件が加わっています。それゆえ、中身は絶えず動いていますし、時間的にも変化しますから、事前に計測するのはかなり困難です。

しかし、人口容量をつかむことは決して不可能ではありません。一定の地域や国家の長期的な動向を眺めると、人口容量とみられる現象は容易に見つけることができるからです。に示したとおり、人間の人口は何度か壁に突き当たり、その都度停滞したり減少してきました。この壁こそ人口容量そのものです。

●第二の仮説「人口抑制装置」は、R.マルサスの「人口抑制」論を継承しつつ、動物学や生態学の知見を取り入れて、より総合的に整理したものです。

マルサスは「人間は人口と生活資料の均衡が破れると、人口増加を抑えるため“能動的抑制”と“予防的抑制”を始める」と述べています。能動的抑制というのは動物界にも広く共通する反応で、人間にとっては「生理的な反応」といいかえることができます。他方、予防的抑制とは「自発的である限り、人間に特有なもの」と書かれているように、まさしく人類という種に備わった「文化的な反応」です。

そこで、能動的抑制を「生理的抑制装置」、予防的抑制を「文化的抑制装置」と定義し直しました。人間の人口抑制装置は、動物と同じ次元の生理的装置と人類独自の文化的装置の二重構造になっているからです。無意識と意識、身分け(みわけ=感覚活動)と言分け(ことわけ=言語活動)、本能と文化など、人間性そのものに潜んでいる二重構造が人口の抑制にも現れているのです。

そのうえで、文化的抑制装置の中身を、直接的抑制、間接的抑制、政策的抑制の3つの次元にわけました。私たち人間は人口容量の制約が強まるにつれ、これら3つのうちいずれかを選んで行なったり、あるいは3つを同時に実施して、人口増加を抑えているのです。

●第三の仮説「人口波動(修正ロジスティック曲線)」は、マルサスの提起した「循環」論を、個体数生態学や文明論の視点から再構築したものです。

人間が文明によって人口容量に介入し、次々に規模を拡大していく以上、人口もまた段階的な波動を描きながら、一貫して増加していくという現象です。マクロな人口推移とは文明の推移でもあるのです。

マルサス自身も人口波動を世の中に理解してもらうのは大変難しいと考え、「深く考える思慮ある人」だけにかすかな期待を抱いていました。もし彼のいうことが正しければ、「人口波動」仮説を理解できるのは、頭の柔軟な思慮深い人だけ、ということになるでしょう。

●「人口波動」説は、従来の人口統計学や人口経済学の枠組みを超えた、いわば「人口生態学」とでもいうべき立場から、人口減少の背景と今後の展望を考えるものです。

出典:古田隆彦『日本人はどこまで減るか』幻冬舎新書、2008


●これが人口波動です。(世界波動日本波動


人口容量とは・・・


●「人口容量」という言葉は、生態学の用語「Carring Capacity」を、古田隆彦が初めて人間に適用した造語です
(『ボーダレスソサイエティ・・・時代は昭和元禄から平成享保へ』1989)。

●人口学者や環境学者の一部からは、「人口容量」は不正確な言葉であり、「環境許容量」や「人口収容力」やという訳語を使うべきだ、との反論が出ています。
●しかし、この概念を正確に表現しようとすれば、「人間のキャリング・キャパシティー」とか「人間の環境許容量」など、いちいち人間≠つけなければなりませんから、大変不便です。
●そこで、筆者はもっと率直に「人口容量」と名づけて、人間の個体数がどれだけ生きられるか、自然環境から社会環境のすべてを含む、時間的、空間的な可能性を意味させたいと思います。

人間のキャリング・キャパシティーは、他の動物のそれよりはるかに複雑な構造となっています。それゆえ、生物学的な「キャリング・キャパシティー」や「環境許容量」でなく、「人口容量」という言葉を使って、人為的、つまり文化的かつ文明的な容量であることを強調すべきだ、と思います。

●「人口収容力」や「人口許容量」でいいではないか、という意見もありますが、「収容力」や「許容量」という言葉には外部から与えられるという受身の姿勢が含まれますから、あえて中立的な「容量」という言葉を使って、人間が創りだす能動的な意味を表したいのです。改めて英訳するとすれば、Human Population Capacity 、あるいはPopulation Capacityとでもするのが適当だと思います。

出典:古田隆彦『日本人はどこまで減るか』幻冬舎新書、2008

●最近では、中国語文化圏で「人口容量」という言葉が一般化しています。



人口波動法
とは・・・


(人口波動法は、人口波動説を未来予測に応用したものです。)

人口波動の6つの時期

人口波動で未来を読むためには、人口波動そのものの性格を社会の動きと連動してとらえるという、もう一つの視点が必要です。長期波動を構成する、一つ一つの個別波動、つまり一つの修正ロジスティック曲線の増加や減少という各過程は、それぞれに相当する社会動向と密接な関係を持っています。この関係を前提にすると、「人口波動の進行過程に伴って、各時期の社会もまた特定の様相を呈する」という仮説がなりたちます。

具体的に説明しますと、個別波動の進行過程は、始動期、離陸期、上昇期、高揚期、飽和期、下降期の6つに分けることができます。この6つの時期は、人口波動そのものに潜む原理によって、自然環境と文明の相関関係や人間の出生・死亡状況といった基本的な特性が、およそ次のように設定できます。

a)     始動期……新しい文明によって自然環境の新たな利用が可能になるという期待の下に、出生数が微増し、死亡数が微減する。

b)      離陸期……新しい文明が実際に自然環境の利用を開始するに伴って、出生数が上昇しはじめ、死亡数が低下しはじめる。

c)      上昇期……新しい文明が自然環境の利用を本格化するに伴って、出生数が急増し、死亡数が急減する。

d)      高揚期……一つの文明が自然環境の利用を拡大しつづけているが、出生数が微減し、死亡数が微増しはじめる。

e)      飽和期……一つの文明による自然環境の利用が飽和するにつれて、出生数が停滞し、死亡数が増えはじめる。

f)      下降期……一つの文明による自然環境利用の限界に伴って、出生数が急減し、死亡数が急増する。

時期別の社会特性

こうした時期別の基本特性の上に、世界や日本の過去の社会変動を重ね合わせてみると、各時期の社会特性がより詳しく設定できます。詳細は『人口波動で未来を読む』や『日本はなぜ縮んでゆくのか』などで述べていますが、これによれば、各時期には次のような傾向が現れてきます。

@始動期……新文明の開発や導入で、それまで人口を抑えていた、さまざまな人口抑制が緩み、同時に経済成長が助走しはじめる。それとともに、古い社会を担っていた旧勢力と新しい社会を作ろうとする新勢力の間で摩擦が高まり、社会全体に保革対立、混沌や混乱、期待や展望といったムードが高まる。

A離陸期……主導文明の選別や浸透によって、人口抑制が解除され、同時に経済成長が開始する。それに伴って、新旧激突の後、社会勢力の統一が達成され、新しい時代精神の下で統一・統合のムードが高まる。

B上昇期……主導文明の定着・主導化で諸制約が解消されるにつれて、経済は急成長に移る。その結果、政治的には中心勢力への集中や集権化が進み、社会全体に成長や発展、新規や清新などのムードが高まる。

C高揚期……主導文明の更新・再生で人口容量が拡大するにつれて、経済成長は絶頂に達する。それとともに、中心勢力の権力もまた絶頂に達し、社会全体に拡大や膨張、豊満や過剰などのムードが高まる。

D飽和期……主導文明の飽和・停滞化に伴って、さまざまな人口抑制が作動しはじめ、経済成長も鈍化しはじめる。そうなると、中心勢力にも動揺が起こり、社会全体に飽和や閉塞、破局や動揺など、先行きへの不安ムードが広がる。

E下降期……主導文明の停滞で人口抑制が完全作動し、同時に経済の停滞、勢力の分散化や形式化が進行していく。これに伴って、社会全体に知足や耐乏の気分が高まり、爛熟・頽廃ムードも広がっていくが、他方では新文明への模索も進みはじめる。

以上のように、6つの時期の社会は、自然環境と文明の相関状況によって、それぞれ独自の特性を示しています。となると、何度か繰り返される人口波動で、始動期には始動期の、上昇期には上昇期の、下降期には下降期の、それぞれの特性が現れてきますから、同じような事象が何度か発生する可能性が高まってきます。言い換えれば、いずれの個別波動においても、それぞれの時期毎に相似関係がなりたつということです。

いうまでもなく、歴史は一回限りのものですから、全く同じことが再び起こるとはまずありえません。しかし、個々の事象の背後に潜む基本的な構造に、それぞれ相似性がある以上、同じような事象が何度か起こることは十分考えられます。これこそ「歴史は繰り返す」という言葉の真意だと思います。

 人口波動法で1989年に予測した「平成享保」に沿って、その後20年間の日本社会は動いています!

出典:古田隆彦『人口減少 日本はこう変わる』PHP研究所、2003



人口減少社会の先駆的研究・・・40余年!


 人口波動の詳細について関心のある方は、拙著をご参照下さい。
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