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現代社会研究所  RESEARCH INSTITUTE FOR CONTEMPORARY SOCIETY
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生活者が求めるブランドとは?
現代社会研究所所長・古田隆彦
生活者が求めるブランドとは?
 
 ファッション市場でブランド離れが進んでいる。高級品を見せびらかす誇示的消費が縮み、特集するフッション雑誌の売れ行きも激減している。

 果たしてブランドは生き残れるのか。否、どうすれば再生できるのか。
生活者の立場から新たな方向を探ってみよう

既成の枠組み超えて

ブランドの元々の意味は、牧場主が自分の所有を示すため、馬や牛に押し当てた「
焼印」のことだ。これが市場社会に応用されて、さまざまな意味を持つようになった。


とりわけ
マーケティング分野で多用され、最も代表的な定義は「個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ」だという(P・コトラー『マーケティング原理』)。

つまり、①売り手から買い手への訴求手法、②競合者への対抗手法、③コト(広義の記号)を複合化した訴求手法、の3つ。

一方、買い手にとってはいかなる意味を持つのか。あまり議論されていないが、整理してみると次の3点が浮かぶ。

①探索・選択の省力化・・・ブランドが表示する商品やサービスの信用度を信頼して、商品を探す時や選ぶ時の労力や時間が省略できる。

②購買リスクの削減・・・ブランドが表示する商品やサービスの品質や性能を享受して、購買後の後悔を避けられる。

③自己表現の実現・・・ブランドが表示する商品やサービスの社会的な影響力を利用して、自らの立場や感性などを積極的に発信できる。

売り手と買い手を並べてみると、ブランドの意味には幾分ギャップがある。今後、もしブランドを再構築していくとすれば、売り手(生産・供給者)と買い手(消費者)という既成の枠組みを超えて、より革新的な発想が必要ではないか。

生活者の3つの願望へ

「消費者ではなく生活者をめざせ」というスローガンがマーケティング業界で叫ばれてから、かなり久しい。だが、両者がどう違うのか、依然として曖昧なままだ。

一方、早くから提唱してきた「生活学」派では「消費者とは市場社会の内に留まる人、生活者とは市場社会を超える人」と明確に区別している。もっとも、この定義はかなり理想主義に走っているから、筆者は「市場社会を利用しつつ、自ら工夫して本来の生活願望を実現していく人」と理解している。

模式化すれば、図に示したように、横軸の生産者・消費者・生活者の、一番左側に立って、縦軸の三つの生活願望を巧みに実現していく人をいう。

三つの願望とは何か。ポスト構造主義理論では、「欲望」とは言葉や記号を求める願望、「欲求」とは身体や生理が求める願望、「欲動」とは感覚や無意識が生み出す願望と仕分けている。

この視点から見ると、衣料ブランドの再構築に求められるのは、図に示したような、次の3つの方向ではないか。

生活者の「自給自足」意識に対応していくこと。

生活行動の原点は、生活者が自分の暮らしに必要なものを自ら作り出すことにある。市場化の進んだ現代社会でも、調理や清掃などの分野では依然として自給の割合が高いが、衣料品においても、手作りや組み合わせなどで、今なお自給自足志向は続いている。

こうした願望をつかむには、完成品としてのブランドを訴求するよりも、自作用の材料を提供する「手作り」向け素材、カスタマイズ向けの素材やサービスなどを、的確に提供するブランドであること、それを強調する方が有効だろう。

生活者の五感や六感など、いわゆる「感覚」次元の満足感を満たしていくこと。

生活者は表層的、記号的な自己顕示だけでなく、深層的、体感的な満足を求めている。

衣料品でいえば、防寒、防暑、触感、吸収性、芳香など、感覚・触覚次元の欲動に敏感になっているから、直感的な次元から、新たな素材やデザインなどを積極的に提供するブランドであることを、より強く提示することが求められる。

デジタル化の功罪に対応する情報発信へ移行すること。

フェイク情報が夥しく飛び交う時代には、SNSやインフルエンサーを利用した、自己顕示向けの情報発信よりも、探索・選択の省力化や購買リスクの削減といった、ブランド本来の信用度を高める情報提供の方が重要になる。

それには、自社商品のリアルな信頼性を増強するとともに、デジタル上でも、サイト保護対策や優良顧客をベースとした情報網などで、的確な情報を訴求していかなければならない。

3つの方向を重ねてみると、人口減少、情報過多、環境重視の進むポスト物欲時代には、ブランドの再構築にも全く新たな視点が必要だと思われる。

(詳しくは繊研新聞・Study Room:2020年2月25日)


モノからコトへ、その次は〝モト〟へ!
現代社会研究所所長・古田隆彦


ワークマンが大ヒットしています。作業服で培った高品質・高機能にデザイン性を加味し、一般ユーザーにアッピールしたことで、一気に火がつきました。

その一方、デパートのアパレル売り場ではあちこちで縮小が始まっています。メインユーザーである、若い女性たちの意識が変わり、衣料品は他人に誇示するファッションから日常の生活用品へ変わってきたからです。

こうした変化は「モノからコトへ」と進んできた生活トレンドが、すでに次の時代へ移り始めたことを示しています。そこで、最近のマーケティング業界では、「モノからコトへ」の次のテーマとして、「トキ(時)」とか「イミ(意味)」、あるいは「エモ(エモーション)」などが提案されています。表層的な展望としては、それなりに頷けると思います。

だが、もっと本質的な変化を読むと、「コトからモトへ」に注意すべきでしょう。これまでの商品は「モノ」と「コト」を一体化した「モノゴト」でした。「モノ」とは機能や品質などの〝物質〟的な効用であり、「コト」とはカラー、デザイン、ネーミング、ブランド、ストーリーなど〝記号〟的な要素です。両方を合わせた「モノゴト」こそ「商品」の実態を意味していますが、実はこの言葉にも「モト」が含まれています。一番上の「モ」と一番下の「ト」です。

モト」とは何でしょうか。商品の持っている効用の〝基本〟、モトモトの値打ちです。外向きの見栄えや一時的な流行よりも、今一度、原点に立ち戻って、機能や品質はもとより感覚や愛着など、〝元々〟の効用を回復させることを意味しています。具体的に言えば、次のような方向になるでしょう。

①ユーザーの五感や六感など、いわゆる「感覚」次元の満足感を満たすこと。衣料品でいえば、防寒、防暑、触感、吸収性、芳香など、感覚・触覚次元の〝欲動〟に敏感になってきたユーザー層に対応し、直感的な次元から、新たな素材やデザインなどを提供することが求められるでしょう。

 ②ユーザーの「自給自足」意識に対応すること。生活用品の原点は、生活者自らが自分の暮らしに必要なものを作り出すことです。市場化が進んだ現代社会でも、調理や清掃などの分野では自給の割合が高いのですが、衣料品においても、手作りや組み合わせなどで、今なお自給自足志向は続いています。

これをつかむには、自作用の材料を提供する「手作り」向け素材、カスタマイズ向けの素材やサービスなどを、今一度見直すことが必要です。

伝統や習俗の継承に配慮すること。私たちの暮らしの底には、意識している以上に、昔からの仕組みやしきたりが潜んでいます。季節の変化やさまざまな行事などに際しては、日本人独自の生活行動がほとんど無意識的に行われています。

こうした傾向をとらえるため、古代・中世からのデザインや伝統的な素材など、永い歴史の中で育まれてきた衣料を再評価し、それに見合った、現代的な商品を創り出すことが望まれます。

三つの方向が示唆するのは、ほとんど忘れられてきた「モト」を再評価し、これらを提供できる商品を創造できれば、従来の「モノ」や「コト」を大きく超えて、新たな市場を広げていける、ということです。

人口減少、右肩下がり、AI主導の時代に適応していくには、常識的な「モノ」「コト」次元を突き抜けて、生活用品の本来の姿を取り戻さなければなりません。

(詳しくは「FASHION VOICE」:カイハラ㈱:90号=2020年2月号)


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