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ポストコロナは「ル・ルネサンス」
現代社会研究所所長・古田隆彦
ポストコロナはル・ルネサンス

ポストコロナはル・ルネサンス・・・新たな衣料革命が始まる!

長びくコロナ禍に続き、国際緊張や食糧危機も懸念され、近代社会の限界があちこちで囁かれている。ポストコロナの世界では、生活様式や衣料需要はどう変わっていくのだろうか。

コロナ禍に伴い、世界人口の急減が浮上している。最も早い予測値では、2040年代にピークに達し、以後は減少していくという。

時代はラストモダンへ

長期的な世界人口の動きから見ると、この動きは14世紀の中世末期と酷似している。図に示したように、黒死病(ペスト禍)で人口が減少した中世末期と、コロナ禍で人口がピークを早めつつある現代は、共通のトレンド上にある。中世末期を「ラストミドル」と名づけると、今始まろうとしている時代は近代末期、つまり「ラストモダン」になるのではないか。

ラストミドルでは、黒死病によって、中世社会の自然・社会構造の問題点が暴き出された。例えば、①寒冷化の進行、②英仏百年戦争の継続、③パクス・モンゴリカからポスト・モンゴリカへ、という中世社会の限界であった。

これによって、キリスト教的時代精神、三圃制農業、純粋荘園制、封建制、教会・王権並立制など、中世の社会構造が悉く破壊された。

一方、ラストモダンでも、コロナ禍によって、近代社会の自然・社会構造の矛盾がさまざまに浮上している。①温暖化の進行、②国際紛争の継続から激化へ、③パックス・アメリカーナからポスト・アメリカーナへ、という近代社会の限界が露わになりつつある。

このため、科学技術主導の時代精神、化石・核燃料源、市場経済、民主主義、国家連合制などにも、さまざまな衝撃が及び始めている。

以上のように、二つのパンデミック時代には、①気候変動の拡大、②国際紛争の激化、③国際的主導国の消滅、の三つの共通点が指摘でき、それぞれの社会構造の基本的動揺が浮び上がってくる。

斬新な時代精神に期待

だが、悪い話ばかりではない。ラストミドルには、中世社会の諸矛盾を根本から変えようとする「ルネサンス」が生み出されているからだ。

ルネサンスは、中世社会を「暗黒の時代」と見なしたうえで、古代のギリシアやローマの学問や知性を復興させ、ヒューマニズムと個性の尊重という、新たな時代精神を生み出すことに成功した。

これをモデルとすれば、ラストモダンでは、今後数十年の間に、近代社会の諸矛盾を根本から変えようとする「ル・ルネサンス=再度のルネサンス」が生まれるのではないか。

そうなると、形骸化する民主主義、格差拡大する経済制度、分散化する国際社会、そしてそれらの背後にある分断的な科学技術など、現代社会の諸矛盾を包括的に改革する、斬新な時代精神の樹立が期待される。

私たちの暮らしもまた大きく変わる。とりあえずは人口減少に見合ったライフスタイルへの転換が進む。人口増加を前提にした成長・拡大型のスタイルを抜け出し、飽和・濃縮型が模索される。

年金・医療扶助制度や課税制度の見直しが進むともに、生涯生活費用への準備や家族観の変化など、一人一人の生き方にも見直しが迫られる。

そうした模索の中から、過剰な個人主義や無謀な上昇志向を超える、新たなスタイルが生み出されるだろう。

既成の価値観が変わる

ル・ルネサンスが進展すると、衣服に対する意識にもかなりの変化が訪れる。

前回のルネサンスでは、中世の教会・王権並立制を脱し、古代ギリシャ・ローマの人間性を復活させる努力に伴って、ロマネスクやゴシック調の装飾過剰なスタイルが終り、均整の取れた左右対称、明るい色彩など、シンプルで調和をめざす衣服への転換が進んだ。

これがモデルになれば、今後のル・ルネサンスでは、近代社会の科学技術による過度な細密志向や、経済優位をめざす格差志向などを大きく超えて、包括的で、一層ふくよかなモードが求められることになろう。どのような需要が広がるのか、大胆に予測してみれば、次のようなものだ。

①性別超越・・・女性の社会進出やジェンダーレス化が進行するとともに、ユニセックス衣料が一般化する。

②年齢差超越・・・長寿化や若年層減少などで年齢意識が次第に弱まり、大胆なエイジレス衣料が増加する。

③職業・階級差超越・・・テレワークやフリーランスなどの増加に伴い、フォーマル、カジュアル、ワークウェアなどのドレス区分も消えていく。

要約すれば、既成の生活価値観による、さまざまな境界が薄まるにつれて、私たち一人ひとりが自らの生活意識や生活価値観に応じ、自由に選択できるスタイルが主流になる、ということではないか。

(詳しくは繊研新聞・Study Room:2022年6月14日)



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